2015年4月から新しいタイプの商標(音、動き、位置、ホログラム、色彩)の保護制度がスタートして、これまでさまざまな”新商標”の登録がされてきました。その中でも、特に注目されていたのが「色彩のみからなる商標」と「音商標」の中でも、“音のみからなる商標”です。「色彩のみからなる商標」については今年3月に2件のみ商標登録されましたが、“音のみからなる商標”については、これまで登録が認められていませんでした。
“音のみからなる商標”の登録の難しさ
ちなみに、「音商標」の登録第一号は久光製薬株式会社の「HISAMITSU」(音)商標ですが、これは音といっても「ヒサミツ」という言葉が含まれているため、商標の登録性が判断しやすいものでした。皆さんも、この「ヒサミツ♪」という音(というか声?)を聞けば現に「ヒサミツ」と聞こえるので、「ああ、あのヒサミツね」とすぐにイメージできるのではないかと思います。実際、この「HISAMITSU」(音)商標は出願から7ヶ月弱で登録査定されています。
一方、”音のみからなる商標”の場合は、少々勝手が変わります。これらの商標は「音だけ」なので、その音の中に「手がかり」となる言葉が含まれていません。
例えば、「HISAMITSU♪」商標以外に、小林製薬株式会社の「ビフナイト♪」や「ブルーレットおくだけ♪」といった音商標が登録されていますが、これらは商品名がそのまま音(声)になっているので、登録しやすいことはご理解頂けるでしょう。
でも、”音だけ”の場合には、その音を聞けばすぐにある具体的な企業なり商品やサービスがイメージできる、という高い周知著名性がなければ商標登録できないとされています。なんといっても「音」を独占するわけですから。
実際に登録されたものは...
さて今回、大幸薬品株式会社、インテル・コーポレーション、Bayerische Motoren Werke Aktiengesellschaft(BMW)の3社による出願が登録査定となっています。
「音楽的要素のみからなる音商標について初の登録を行いました」(特許庁ウェブサイト:2017年9月26日付)
http://www.jpo.go.jp/seido/s_shouhyou/otoshouhyou-hatsutouroku.htm
いかがでしょうか。ほとんどの人がこの会社名を聞いただけで「ああ、あの音が登録されたのか!」とおわかりになるのではないでしょうか。もしかすると、BMWのものだけピンとこないかもしれませんが、実際の音を聞くと「CMで聞いたことある!」と思うはずです。
今回登録査定となった3件のうち、大幸薬品社とインテル・コーポレーションの音商標は、新しいタイプの商標制度の開始初日に出願されていまして、この登録査定が出るまで約2年半もかかっています。「こんなに有名な音(商標)なのに、なんでこんなに時間がかかっているの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
音商標は審査が厳しすぎる!?
これにはどうやら、現在の音商標の審査運用では、楽譜と音源の同一性(一致すること)がかなり厳格に検討・判断されていることが原因の一つとしてあるようです。音の商標の代理をしている複数の弁理士から聞くところによれば、出願後、拒絶理由が通知された際、「楽譜の記載と実際の音源の内容に相違がある」という指摘が多くされているようで、皆その対応に苦慮していると聞いています。
今回登録が認められた3件は、そうしたハードルをクリアしたものと推測します。新しい制度を導入した当初は、こうした苦労がつきものとはいえ、ある程度、ユーザーフレンドリーな制度運用を期待したいものです。今後、さまざまな場面で新しい商標の審査運用をより柔軟にしてもらえるよう働きかけができればと考えています。
<ブランドの保護は、商標専門弁理士へ!>
プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹
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