突然ですが、私は昭和46年生まれです。昭和のど真ん中に生まれて平成を過ぎ、この5月に3つめの元号を迎えます。高校2年生のとき、当時の官房長官だった小渕さんが「へいせい!」と言ったことが昨日のことのように思い出されます(あれ、結構インパクトありましたよね)。
当時、新しい元号は「平成」なのかー、とあまりピンと来ませんでしたが、そんな平成とともに30年を過ごして、今ではなんとなく愛着もあるくらいです。人生2度目の改元はどんな思い出になるのか楽しみです。そんな中、元号と商標に絡んだニュースを見かけました。
「ノブコブ、コンビ名に『平成』使えない説浮上 新元号へ思わぬ余波『ちょっと大変です』」(ORICON NEWS:2019年3月19日付)
https://www.oricon.co.jp/news/2131813/
人気お笑いコンビの平成ノブシコブシさんが、コンビ名に「平成」が使えないんじゃないかと不安になっているという記事で、「特許庁が1月30日、新旧の元号を商標として使えないよう改訂した」ことに言及されています。
<いきなり「使えなくなる」わけじゃありません>
この「特許庁が改訂した」というのは、商標の審査基準を改訂したことを受けています。商標審査基準とは、どういう商標が登録できて、どういう商標は登録できないのか、その判断基準をまとめたものです。商標が登録できるか否かを判断するものであって使えるかどうかを規定するものではありません。なので、この改訂でいきなり彼らのコンビ名が使えなくなる!わけじゃありません。
<何がどうかわったのか>
では、今回の改訂で何がどう変わったのかを見てみましょう。
商標審査基準「第3条第1項第6号(前号までのほか、識別力のないもの)」(特許庁ウェブサイトより)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/document/index/10_3-1-6.pdf
改訂前と改訂後を比べてみると、こんな感じです。
改訂前「4.現元号を表示する商標について:商標が、現元号として認識される場合(「平成」、「HEISEI」等)は、本号に該当すると判断する。」
↓
改訂後「4.元号を表示する商標について:商標が、元号として認識されるにすぎない場合は、本号に該当すると判断する。元号として認識されるにすぎない場合の判断にあたっては、例えば、当該元号が会社の創立時期、商品の製造時期、役務の提供の時期を表示するものとして一般的に用いられていることを考慮する。」
おわかりいただけただろうか...?
これまで、現元号の「平成」は商標登録できないとされていたのが、「現」が外れて新元号も旧元号も「元号として認識されるにすぎない場合は」商標登録できないという規定になりました。つまり、改定前の規定でも「平成」は商標登録できないとなっており、平成ノブシコブシさんにとって状況は何も変わっていません。
でも、今後、彼らのコンビ名が突然使えなくなることはないでしょう。「平成ノブシコブシ」は「元号として認識されるにすぎない」に該当しないからです。特許庁のデータベースJ-PlatPatで「平成」の文字を含む商標を検索すると100件以上検出されます。例えば、スタジオ・ジブリが「平成狸合戦ぽんぽこ」を、松竹が「平成中村座」を、フジテレビが「平成教育委員会」を商標登録しています。これらは映画のタイトルだったり、歌舞伎の公演だったり、テレビ番組名だったりとさまざまですが、どれも対象とする商品やサービスとの関係で、元号として認識されるにすぎないものではないと判断されて商標登録を受けています。「平成ノブシコブシ」も有名なお笑いコンビの名称と認識されるので、元号として認識されるにすぎないものにはあたりません。彼ら(というか所属先の吉本興業)が商標出願すれば登録を受けられるでしょうし、他人が出願すれば登録が拒絶される可能性が高いです。コンビ名が突然使えなくなることはないと言っていいので、お二人には安心してください!と伝えたいです。
<特許庁の狙いは?>
今回の改訂の目的には2つの意味があります。1つめが、5月の改元前に新元号が発表されるので、改元前に新元号が商標出願されても(現元号ではなくとも)拒絶されることを明確にすることです。2つめが、改元後も、元号そのものであれば登録できないことを明確にすることです。元号は多種多様な場面で使用されるので、下手に商標登録されてしまうと問題が起こりかねません。今回特許庁が審査基準の改訂を行ったのは、そうした問題を予防することが目的であり、むしろ皆さんが安心して元号を元号として使えるようにするための対応なので、勘違いして特許庁さんを責めないようにしていただければと思います。
<ブランドの保護は、商標専門弁理士へ!>
プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹
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