文字商標とは?文字商標を決めるときに気を付けたいことを解説

はじめに

商標をどのような文字で構成するか、図形要素を含むか、標準文字にするかなど、商標の要素構成を商標の態様と言います。商標を決める際には、商標の態様を慎重に選定することが重要です。特に文字要素は商標の中でも最も重要な要素であり、ブランドの識別と差別化に大きく寄与します。

同じ文字から構成されている商標であっても、態様の違いで、他人の権利を侵害したり、登録が難しくなったりする可能性があります。その点からも商標の態様をどのようにするかは重要な問題です。

特に文字をベースとした商標を検討する場合、意味や発音にも注意することが必要です。商標登録前の慎重な調査と専門家のアドバイスを活用することで、効果的な文字商標を確立し、ブランドの保護を確実にしましょう。商標決定においてこれらのポイントを念頭に置くことで、ブランドの価値を最大限に引き出すことができるでしょう。

商標の同一と類似

商標権は同一・類似の範囲で効力が及びます。他社の商標と同一または類似している場合、権利侵害になったり、商標登録ができない結果となる可能性があります。商標の同一・類似の判断基準がどのようなものなのかを理解することが重要です。

外観・称呼・観念

商標の類否判断には、外観・称呼・観念の要素を総合的に考察する必要があります。外観とは商標の見た目が似ているかどうか、称呼とは商標の読みが似ているかどうか、観念とは商標の意味が似ているかどうかです。

たとえ外観が似ていても、称呼や観念が異なる場合、商標の類似性は低くなるかもしれません。逆に、外観が違っていても、称呼や観念が似ている場合には商標の類似性が高まることがあります。

文字要素を含む商標の場合、特許庁の審査などで重視されるのは商標の称呼です。アルファベットであっても日本語(漢字、平仮名、片仮名)であっても一律に比較できるからです。

外観から類似と判断される場合、どちらかが他人の商標を意図的に模倣している場合か、単純な図形を組み合わせたよくある配置構成の商標の場合が多いでしょう。称呼に比較して類似すると判断されるケースは少ないと言えます。

観念から類似と判断されるケースはさらに少ないと思います。造語であれば意味はそもそもないので比較できません。総合的な判断の一要素と捉えられる場合が多いような気がします。

分離して比較

商標内で文字(文字A)と文字(文字B)とが離れているような場合、文字Aもしくは文字Bのいずれかだけを選択して他人の商標と比較することがあります。図形要素と文字要素がそれぞれ独立して並んでいるような商標であれば、図形要素と文字要素のいずれかだけを選択して他人の商標と比較することがあります。このように、商標内の各要素が異なったものと認識される場合、各要素の外観・称呼・観念に注目して他人の商標と比較します。

商標の同一

①書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、②平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称
呼及び観念を生ずる商標、③外観において同視される図形からなる商標、は商標法で社会通念上同一と定義されています。不使用取消審判において登録商標と同一の商標を使用しているかどうかが争われたときに参照される定義です。

また、このような社会通念上同一の商標であれば、登録した場合、ほぼ同一の範囲に権利を及ぼすことができると思います。したがって、このような商標のうち、どの商標を登録しようかと考えている場合、いずれの商標であっても同様の範囲の権利を取得できると思います。

標準文字

標準文字とは

標準文字制度とは、文字のみにより構成される商標のうち、特許庁があらかじめ定めた文字書体によるものをその商標の表示態様として公表し、登録する制度です。この制度を利用すると、使用する文字書体が決まっていない場合でも、標準文字として商標登録できます。登録できる標準文字は全角30字以内で、スペースも文字数に含まれます。ただし、書体、文字の大きさ、配置などの要素は含まれず、文字だけが登録される点に留意してください。標準文字制度を利用することで、商標の保護と混同の防止がスムーズになります。

商標法第5条第3項に規定する標準文字(特許庁)

日本語の文字商標

平仮名・片仮名・漢字

文字だけで構成されているとしても、実際に使用しているロゴで商標登録したい場合、特殊な読み方をするのでカナを振りたい場合、標準文字では商標登録できませんので、商標見本となる画像データを作成し、それを商標登録することになります。

アルファベット・英語の文字商標

アルファベット・英語の文字商標も日本語と同様です。通常のアルファベット文字は特許庁が定めた文字書体に含まれていますので、それらだけで構成される商標は標準文字として登録できます。

大文字と小文字

大文字と小文字をどのように組み合わせるかはそれほど気にしなくてよいでしょう。商標権は類似の範囲まで及びますので、文字の構成が同じであれば大文字と小文字がどのように組み合わせられていても類似と判断されるケースが多いからです。また、商標の使用、不使用の判断においても大文字と小文字は社会通念上同一と判断されます。

スペルの違い

商標の類否判断は主に称呼(商標のよみ)が重要視されています。したがって、アルファベットの日本語読みで同じ読みになる場合、スペルが違う商標同士でも類似と判断されるケースがあります。たとえば、lとRは日本語読みではラ行の音になります。ただし、スペルの違いによって観念(意味)が変わってくる場合、非類似になるケースが多いでしょう。たとえば「right(右)」と「light(照明)」では同じ「ライト」の読みですが意味が違いますので非類似と判断されるでしょう。

アルファベット・英語の2文字以下の商標

1文字または2文字のアルファベット・英語は一般に品番などに使用されることが多く、商標権として独占されると取引に悪影響を与えますので、識別力が無いという理由で通常商標登録できません。しかし、デザイン化・ロゴ化すれば識別力がでて商標登録も可能となります。

2段以上に併記した商標

アルファベット・英語にカナをつけた商標

アルファベット・英語で構成される商標において、読みがわかりにくい、特殊なのでよみを特定したい場合、読みを付けることで他人の商標と区別したい、2個以上の単語の結合商標で一体性を強調したい場合、2段にしてカナを付けるのが有効なことがあります。

スペース

スペースは読みが生じませんので通常の1文字分のスペースであれば類否判断への影響は小さいです。ただし、2語以上の単語からなる結合商標の場合、スペースの前後で分断して他の商標と比較される場合がありますので、特にそれぞれの単語が長い場合、注意する必要があります。標準文字ではなくてスペースを狭めた態様の商標にする、全体の読みをスペースのないカナとしてふる、などといった対策が望ましい場合があります。

記号

記号のみの場合は識別力がないと判断され商標登録できない可能性があります。デザイン化・ロゴ化を検討した方がよいかもしれません。また、読みが生じませんので類否判断への影響は小さいです。

数字

数字のみの場合は識別力がないと判断され商標登録できません。デザイン化・ロゴ化、何らかの文字を結合することが必要です。

文字のサイズ

文字のサイズはさほど類否判断への影響は大きくないです。大きさが同じまとまりで分離して解釈される場合があります。たとえば「PRIME」と「WORKS」をそれぞれ文字の大きさを変えて並べた場合、「PRIME」のみと他の商標が比較される、「WORKS」のみと他の商標が比較される、といったことになります。一体の商標と判断して欲しい場合は同じ大きさにするのが望ましいでしょう。

単語を組み合わせた結合商標

単語を組み合わせた結合商標を商標登録する場合、それぞれの単語を分離して類否判断される可能性もありますので、構成要素のそれぞれの単語と同一または類似する他人の商標がないかも検討する必要があります。

図形と組み合わせた結合商標

文字と図形を組み合わせた結合商標を商標登録する場合、文字と図形を分離して類否判断される可能性もありますので、単語と同一または類似する他人の商標がないか検討するだけでなく、図形と同一または類似する他人の商標がないか検討する必要があります。

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この記事を書いた人

木村 純平

木村 純平

2人目の子供の誕生をきっかけに弁理士を目指してから、早くも20年が経過しそうです。商標から始まり、意匠、著作権、現在の事務所に来てからは特許、実用新案も手がけるようになり、それぞれの分野でクオリティを上げ、ユーティリティプレイヤーとして重宝されるよう精進しています。