研究発表や展示会での試作品公開、自社Webサイトでの新製品発表など、事業活動においては「特許出願前に発明を公表せざるを得ない状況」が発生することがあります。
原則として、公表された発明は「新規性」を失うため特許を受けることができません。しかし、一定の条件を満たすことで例外的に救済される制度が「新規性喪失の例外」です。
本記事では、日本における新規性喪失の例外規定の手続き上のポイントと、海外主要国(米国・欧州・中国)における制度の違いや留意点について解説します。
1. 日本における新規性喪失の例外規定(特許法第30条)の基本
日本の特許法第30条では、出願前に自らの行為によって発明を公開してしまった場合でも、公開の日から1年以内に特許出願を行うことで、その公開によって新規性を失わないものとして扱う救済措置を定めています。
※注釈:新規性とは?
特許を受けるための主要な要件の一つで、その発明が公知(公に知られていること)になっていないことを指します。自ら発表した場合であっても、原則としては公知の技術とみなされます。
実務上の主な提出書類と要件
- 特許出願時の適用主張: 願書に「特許法第30条第2項の規定の適用を受けようとする旨」を記載して出願します。
- 証明書の提出: 出願日から30日以内に、いつ・どこで・誰が・どのような内容を公開したかを証明する「証明書」を特許庁へ提出する必要があります。
事後的に事実関係を立証することは相応の手間を要するため、公開時の資料(プレゼン資料、WebサイトのWebアーカイブや公開日時の記録、展示会のパンフレット等)は適切に保管しておくことをおすすめします。
2. 主要国・地域における制度の比較
日本の特許法第30条で救済される場合であっても、外国出願において同様に救済されるとは限りません。各国でグレースピリオド(救済期間)の有無や適用条件が異なるためです。
| 項目 | 日本 (JPO) | 米国 (USPTO) | 欧州 (EPO) | 中国 (CNIPA) |
|---|---|---|---|---|
| 救済期間(グレースピリオド) | 公開から1年 | 公開から1年 | 原則不可(6ヶ月) | 原則不可(6ヶ月) |
| 適用対象となる公開行為 | 意に反する公開・自発的な公開全般 | 発明者等による公開全般 | 国際博覧会・明らかな悪意による公開等に限る | 政府主催の展示会・指定学術会議等に限る |
| 出願時の主張・証明書 | 必要 | 不要(宣言書等で説明可能) | 必要 | 必要 |
各国の実務上の留意点
- 米国(USPTO)
米国は手厚いグレースピリオド(102条(b))を有しており、発明者自身による公開であれば1年以内の出願で救済されるケースが多く見られます。
- 欧州(EPO)
原則として救済されません。公認された国際博覧会での出品など、例外的な事由がない限り自発的な発表は救済対象外となります。
- 中国(CNIPA)
原則として救済されません。「中国政府が主催・承認した国際展示会での出品」や「指定された学術会議での発表」などに適用範囲が限定されており、一般的なWebサイトや自社展示会での公開は救済されません。
3. 実務における留意点
- 第30条適用の範囲と限界
新規性喪失の例外規定は、あくまで「自らの公開行為によって新規性を失わない」とする扱いに過ぎません。公開から出願までの間に第三者が独自に同じ発明を完成させて出願または公表した場合は、注意が必要です。
- 海外展開時の権利化への影響
日本国内で第30条を適用して出願した場合でも、欧州や中国をはじめとする「原則として例外を認めない国」への出願時には、事前の公開が拒絶理由となる可能性が高くなります。グローバル展開を予定している製品・技術については、「公表前の出願」をおすすめします。
4. まとめ
新規性喪失の例外規定(特許法第30条)は、出願前に発表してしまった場合に利用できる制度ですが、万能の制度ではありません。特に海外展開を視野に入れている場合は、制度の適用を前提とした運用には慎重を期す必要があります。
【実務における具体的な対応手順】
- 公開前の事前チェックとスケジュール管理
今後、研究発表や製品公開のご予定がある場合は、公開前に出願を完了できるよう開発・出願スケジュールを管理することをおすすめします。
- 社内における事後対応の確認手順
既に出願前の公表が発生してしまった案件につきましては、公開日・公開媒体・発表内容などの事実関係を早期に整理し、出願を予定している対象国での救済可能性について専門家へ確認・相談されることをおすすめします。
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