グローバル展開を加速する「特許審査ハイウェイ(PPH)」の効果的な活用法と留意点

企業の事業活動が国境を越えて広がる中、世界各国で迅速に特許網を構築することの重要性が高まっています。しかし、複数国で並行して通常の特許審査を進めると、審査期間の長期化やコストの増大が課題となることが少なくありません。

そこで注目されるのが「特許審査ハイウェイ(PPH:Patent Prosecution Highway)」です。本記事では、知財部門の皆様に向けて、PPHの基本概要から、主要国(米国・欧州・中国等)における通常ルートとの比較、そして実務上の戦略的な活用法について解説します。

  • 注釈:
    • OEE (Office of Earlier Examination): 先に審査を行い、特許可能と判断した特許庁。
    • OLE (Office of Later Examination): PPH申請を受け、後に審査を行う特許庁。
    • PCT (Patent Cooperation Treaty): 特許協力条約。1回の出願で複数国に出願したのと同じ効果を得られる国際出願制度。

1. 特許審査ハイウェイ(PPH)とは

特許審査ハイウェイ(PPH)とは、第1国(先に審査を行った国)の特許庁で「特許可能」と判断された出願について、出願人の申請により、第2国(後に審査を行う国)において簡易な手続で早期審査を受けられるようにする国際的な枠組みです。

2. データで見るPPHのメリット

日本国特許庁(JPO)がまとめた各国の統計データによれば、PPHを活用することで以下のメリットが客観的に示されています。

  • 特許査定率の向上: 通常の審査に比べ、PPHを利用した出願は特許査定率が高い傾向にあります。例えば、米国特許商標庁(USPTO)や欧州特許庁(EPO)において、PPH申請案件は通常の特許査定率を上回る水準で推移しています。
  • 審査期間の短縮: PPH申請を行うと優先的に審査が開始され、多くの場合、数ヶ月以内に最初の審査結果(ファーストアクション)が通知されることが期待されます。
  • オフィスアクション(OA)回数の削減: 審査官がOEEの審査結果を参考にするため、拒絶理由通知の回数が減少し、結果として現地代理人費用(翻訳費用や応答費用)の抑制が見込まれます。

3. 日本を基礎とした外国出願:通常ルートとPPHルートの比較

日本の特許庁(JPO)で特許査定となった案件を基礎として、外国特許庁へ出願する際の「通常ルート」と「PPHルート」の違いを比較表にまとめました。

4. 実務における効果的なPPH活用戦略

単に制度を利用するだけでなく、自社の出願戦略に合わせて以下の枠組みを活用することが検討されます。

(1) PPH MOTTAINAI(モッタイナイ)の活用

当初のPPHは「第1国出願をした特許庁(受理官庁)」が特許査定を出した場合にのみ利用可能でした。しかし「PPH MOTTAINAI」の枠組みにより、出願の順序に関わらず、協定締結国のいずれかの特許庁で先に特許可能と判断されれば、他の特許庁に対してPPHを申請できるようになりました。これにより、例えば審査の早い米国等で先に特許査定を得て、それを基に日本や中国でPPHを申請するといった柔軟な順序での権利化が可能です。

(2) PCT-PPHの活用

PCT国際出願の国際調査機関(ISA)や国際予備審査機関(IPEA)が作成した見解書(WO/ISA等)において、特許性ありと判断されたクレームに基づき、各国への国内移行時にPPHを申請するルートです。特定国の審査を待たずに、複数国で一斉に早期権利化を図る場合に有効な選択肢となります。

(3) クレーム対応性のマネジメント PPH最大の留意点は「OEEで特許可能と判断されたクレームと、OLEに提出するクレームが十分に対応している(同一、または範囲が狭い)必要がある」という点です。各国特有の記載要件を満たすために微修正を行う場合でも、対応性が否定されないよう、日本の代理人および現地代理人と綿密に連携することが推奨されます。

5. まとめ

特許審査ハイウェイ(PPH)は、グローバル市場における技術保護を早期化し、出願にかかるコストを適正化するために非常に有益な制度です。各国で特許網を構築する際は、審査の進捗状況を横断的にモニタリングし、利用可能なPPHルートを見極めることが実務上の鍵となります。


参考(外部リンク)

お問い合わせ

Contact

特許・商標・意匠などに関するご相談・ご質問がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。