公序良俗に反する商標とは何か? ~ 審査基準の改定 ~

injustice商標審査基準が大幅な改訂作業を行っていることは、以前の記事(「LADY GAGA」と商標審査基準の改訂)でもご紹介しましたが、来年の改訂内容が産業構造審議会の審議から明らかになってきましたので、何回かに分けて紹介と解説をさせて頂こうかと思います。そこで、今回は公序良俗に反する商標(商標法4条1項7号)から。

問題の所在と改訂の方向

商標法4条1項7号(以下「7号」とします。)は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」は商標登録できない旨を規定しているものです。これは民法90条のような抽象的で包括的に要件を含むいわゆる一般条項といわれる類のもので、抽象的であるが故、柔軟にその適否を解釈することができる反面、法的な安定性に欠けるという問題点があります。具体的事案の適用においては審査基準、判例などで蓄積された基準に基づき適用の可否が判断されるため、それらの基準の整合性が求められるところです。

現行の審査基準で挙げられている7号に該当する類型は、

  • その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与える商標
  • 使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような商標
  • 他の法律によって、その使用等が禁止されている商標
  • 特定の国若しくはその国民を侮辱する商標
  • 一般に国際信義に反する商標

です。

異議申立や無効審判において、他の具体的な拒絶理由・無効理由に要件が当てはめられないケースで7号が持ち出されてくることがあります。特に、剽窃的な出願に対して、申立人側の引用商標が未登録で周知性も足りないような場合に根拠とする場合や、周知性を必要とする10、15、19号の主張の予備的な主張として7号を主張する場合に用いられます。

このようなケースは外部から見れば私的領域の諍い、つまり個人同士のけんかのような事案も多くあり、そのような紛争のどこまでを公共の利益の問題として7号を適用するべきか、蓄積された判例に照らし合わせて、明らかにするという点も、今回の改訂の目的かと思われます。

 

過去の判例

Anne of Green Gables事件(知財高裁平成18年9月20日判決)

日本では「赤毛のアン」で知られる著作物の原題「Anne of Green Gables」を、著作権者に無断で出願した商標登録に対する無効審判の審決取消訴訟では、上記の審査基準で挙げられた商標に加え「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」も7号に該当するとして、無効審決を認めました。

コンマー事件(知財高裁平成20年6月26日判決)

商品「フライトジャケット」の販売で知られていた米国法人の商標「CONMAR」と、取引先である日本法人が剽窃的に商標登録した無効審判の審決取消訴訟では、7号に該当し無効とした審決に対し、7号は適用されず、4条1項10号、15号、19号に該当しうるとの理由で審決を取り消しました。

この判決では、「『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ』を私的領域にまで拡大解釈することにより商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されない」として、私的領域の紛争にまで7号を適用することに釘をさす判断となっています。

Asrock事件(知財高裁平成22年8月19日判決)

韓国で情報通信機器の販売事業を行っていると主張する個人が出願した商標「Asrock」の商標登録に対し、台湾ASRock社の正規輸入代理店の日本法人が無効審判を提起した事件です。

審判では、「商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、このような場合においてまで、『公の秩序や善良な風俗を害する』特段の事情がある例外的な場合と解して、商標法4条1項7号を適用することはできない。」と7号の適用を否定しました。

しかし、審決取消訴訟では、商標権者の日本での事業活動の可能性に対する疑念、他の案件における剽窃的な出願、警告書を送付し過度な譲渡金を請求した事実などから、「被告の本件商標の出願は、・・・先回りして、不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから、商標登録出願について先願主義を採用し、また、現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても、そのような出願は、健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり、また、商標法の目的(商標法1条)にも反し、公正な商標秩序を乱すものというべきである」として、審決を取り消す判断を下しました。

 

新基準に関する審議の内容

新審査基準案は、7号に該当する類型として「Anne of Green Gables事件」の5つの類型を踏襲し、さらに、該当例として、

  • 「大学」等の文字を含み学校教育法に基づく大学等の名称と誤認を生ずるおそれがある場合
  • 「○○士」などの文字を含み国家資格と誤認を生ずるおそれがある場合
  • 周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうと判断される出願の場合
  • 国旗(外国のものを含む)の尊厳を害するような方法で表示した図形を有する場合

を列挙しています。

審議の中では、剽窃的な出願は、「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」に含まれるとの解釈で、審査においても情報提供で客観的な資料が提出されたような場合に適用するとの方向性が示されました。

これら審査基準の改定の審議、及び関連する判例から、今後の剽窃的な出願への7号の適用は、4条1項10号、15号、19号に該当しない場合、かつ、出願の経緯に社会的相当性を欠くような場合に限られるものと思われ、異議申立人・無効審判請求人は商標権利者の悪意性の立証がより重要になってくるものと思われます。

プライムワークス国際特許事務所 弁理士 木村純平

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