「インテル入ってる。」「あしたのもと AJINOMOTO」「JUST DO IT.」「i’m lovin’ it」など、テレビCMの中や街角の広告で、消費者にストレートに企業イメージをすり込むために活用されているのがタグラインと近年呼ばれているものです。もともとはスローガンとかキャッチフレーズと言われていて、こういった類の宣伝文句は昔からあるものですが、こういった広告表現を企業がブランド戦略の中で洗練された形で、タグラインとして活用する事例が増えています。今回は企業のブランド戦略にとって大きな効果を持つツールであるこのタグラインを商標的な観点から検討してみたいと思います。

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タグラインって商標なの?
このタグラインは商標と言えるのでしょうか?あるタグラインを見て、聞いて、特定の会社を思い浮かべるのであれば、それは商標と言えるでしょう。一般に、商標とは自分と他人の商品・サービスとを識別させる(自他商品・役務識別力のある)表示と考えられています。それを見て、聞いてある会社の商品をイメージするのであれば十分に商標の役割を果たしていると考えられます。
実際、以下のように多くのタグラインが商標登録されています。
商標 | 登録番号 | 権利者 |
---|---|---|
あしたのもと | 登録4421775号ほか | 味の素(株) |
JUST DO IT | 登録4206837-2号ほか | 米国 ナイキ社 |
I’M LOVIN’ IT | 登録4774442号 | 米国 マクドナルド社 |
Inspire The Next | 登録4463685号 | (株)日立製作所 |
カラダにピース | 登録5081832号 | アサヒ飲料(株) |
SHIFT THE FUTURE | 登録4611549号 | 日産自動車(株) |
いのち、ふくらまそう。 | 登録2146891号 | 第一三共(株) |
With Your Life | 登録4808775号 | 日本通運(株) |
出典:特許庁
タグラインの自他商品・役務識別力
しかし、特許庁は、2016年の3月まで、「標語(例えば、キャッチフレーズ)は、原則として、本号(商標法3条1項6号)の規定に該当するものとする。」(審査基準)として、タグラインを含むキャッチフレーズは基本的には登録になりませんよ、という立場をとっていました。これは、タグラインやキャッチフレーズの多くが商品やサービスの宣伝広告や企業理念を表したもので、そういった表現は自他商品・役務識別力の無い表示だという考えからです。
裁判においても、自動車教習所を運営する会社の商標登録出願「習う楽しさ 教える喜び」について、居酒屋を経営する会社の商標登録出願「新しいタイプの居酒屋」について、知財高裁は自他商品・役務識別力が無いと判断しています。
審査基準の改訂
とはいえ、上記の登録例からもわかるとおり、タグラインやキャッチフレーズが必ず拒絶になるわけではなく、審査で問題無く登録になる例や、審査では拒絶されたものの審判では登録された例が混在し、タグラインやキャッチフレーズが商標法3条1項6号に該当するための具体的な判断基準が明確にされないまま特許庁の運用がなされていました。
そこで、特許庁は2016年の審査基準の改訂で、本規程にかかる判断基準を明確にしています。
簡単に述べますと、以下のようになります。
- 出願商標が、宣伝広告、企業理念・経営方針等を表示する標章であっても造語と認識されれば本規程に該当しない
- 出願商標が、指定商品・役務の説明、特性、優位性、品質、特徴を表す、指定商品・役務の宣伝広告に一般的に使用される、といった事情が考慮され、本規程に該当するか(単なる宣伝広告にすぎないか)が判断される
- 出願商標が、指定商品・役務との関係で直接的、具体的な意味合いでない、出願人のみが宣伝広告として使用している、といった事情が考慮され、本規程に該当するか(単なる宣伝広告にすぎないか)が判断される
- 出願商標が、企業の特性や優位性を記述している、企業理念・経営方針等を表す際に一般的に使用される語句で記述しているといった事情が考慮され、本規程に該当するか(単なる企業理念・経営方針等にすぎないか)が判断される
- 出願商標が、出願人のみが一定期間自他商品・役務識別標識として使用しているといった事情が考慮され、本規程に該当するか(単なる企業理念・経営方針等にすぎないか)が判断される
タグラインの権利化
この改訂を受け、キャッチフレーズ的なタグラインを形式的に一律に拒絶するような審査運用はなくなると思われますので、いままで権利化に躊躇していた企業がタグラインを商標登録し、権利化する動きが加速するものとみられます。
タグラインを今から採択するのであれば、商標登録できる、権利として強く、ブランド価値の高いタグラインを採択するべきです。上記審査基準を参考に自分のタグラインの採択を検討してみましょう。
一方、すでにタグラインを使用されて権利化を行っていない方、今後ブランド戦略の一環でタグラインの使用を検討されている方、是非一度タグラインの権利化をご検討ください。
また、過去に拒絶されてしまったという方、審査基準の明確化で登録されやすく、また意見書でも争いやすくなっています。もう一度権利化をご検討されてみてはいかがでしょうか。