商標権侵害とは?商標権の侵害に関するポイントを解説

商標権侵害とは?

この記事では商標権侵害について詳しく解説し、企業や個人が商標権の侵害を受けた場合、商標権の侵害を指摘された場合の対応について解説します。商標権とは何か、侵害行為の具体例、警告書の意味・使い方、および経済活動を行っていく上で商標権の侵害に関して取るべき対応策について解説します。

商標権とは

商標権の意義

商標とは、企業や個人が商品やサービスを識別し、消費者に特定のブランドを認知させるために使用するマークやロゴなどの特定の記号です。商標権は、商標を保護するために認められた権利で、登録することで権利が発生します。商標は独自のデザインや名称であることが重要であり、登録によって一定期間、他者による不正使用や模倣を防止します。商標権は企業のブランド価値を高め、消費者に信頼性を与えます。正当な権利者は商標権を活用し、市場での競争力を強化すると同時に、不正競争行為からの保護を確保します。

商標権の保護期間と範囲

日本における商標権の保護期間は、商標の登録日から10年間です。この期間を過ぎると商標権が自動的に失効してしまうため、権利者は定期的な更新手続きを行う必要があります。商標の保護期間を効果的に管理することで、ブランドの識別性を維持し、競合他社からの不正使用や模倣を防止できます。商標権者は保護期間の終了を見逃さず、更新手続きをこまめに行うことが重要です。

商標権の保護範囲は、登録商標と同一または類似する商標におよび、商標登録時に指定した商品やサービスの類似範囲に限定されます。つまり、商標権は、登録商標と同一または類似する商標が指定商品・サービスと同一または類似の商品・サービスに使用されている場合、その権利が及びます。

商標の登録出願手続きとその重要性

商標権の登録出願手続きは、商標を守るために重要なステップです。登録出願によって商標の排他的な所有権が確立され、他者による不正使用や侵害を防止できます。商標の登録出願は権利の強化や対外的な信頼性向上にも繋がり、ブランド価値の向上にも寄与します。ただし、登録出願手続きは複雑なプロセスであり、適切な文書の提出や審査への対応が求められます。専門家の助けを借りながら、商標の登録出願手続きを適切に進めることが重要です。

商標権の侵害とは

商標権の侵害とは、他者が商標権者の許可なく登録商標と同一または類似する商標を指定商品・役務と同一または類似する商品・役務について使用する行為を指します。これには直接的な商標の模倣や類似マークの使用だけでなく、混同を招くような商品・サービスの提供や商標の改変も含まれます。商標権の侵害は、権利者のブランド価値や評判を損ない、消費者を混乱させる恐れがあります。警告書を送付して侵害の停止を求めたり、解決が難しい場合は訴訟を提起することもあります。商標権の侵害は法的な問題であり、権利者は早期に対応することが重要です。

商標権侵害の具体例

商標権侵害は、たとえば以下のような例が挙げられます。

人気ドリンクを製造・販売するニコニコ飲料社が、ゴキゲンドリンク社が販売するドリンクに対して、商品名が類似していることから自社の商標権を侵害しているとし、販売差し止めなどを求めた。(商品名の同一・類似)

大手衣料品ブランドが衣料品のセレクトショップに対し、自社ブランドと同じ名称の店名を用いていることから、名称の使用差し止めと損害賠償を求めた。(店名と商品名の同一・類似)

人気ドリンクを製造・販売するニコニコ飲料社の社名が、ヨロシク乳飲料社が取得していた商標権の侵害に該当するとして、社
名の使用差し止め並びに損害賠償を求めた。(社名と商品名の同一・類似)

大手通信プロバイダーのピカピカ通信社が提供を開始したサービスが、地方都市のパリパリ電気設備社が既に提供していた類似のサービスと同じ名称であったことから、パリパリ電気設備社が商標権を侵害されたとして名称の使用差し止めを求めた。(サービス名の同一・類似)

商標権侵害の発生原因

商標権侵害が起こってしまう理由は、たとえば人気のあるブランドや商品名を利用して安易にネーミングする場合です。大手ブランドや大手製品メーカーの多くはブランド名、商品名を適切に管理し、商標登録を行っています。安易にそのような大手ブランドや大手製品メーカーのブランド名や商品名を真似したり、利用したりするネーミングは商標権侵害の危険性が存在します。

また、商標権侵害はその商標権の存在を知らない場合であっても成立します。その商標が有名でない場合であっても、たまたま知らず知らずそ商標権に抵触するネーミングを行えば商標権侵害が成立します。事前に商標調査を行えばリスクを回避することができますが、商標権侵害のリスクを認識していない場合、商標調査をせずに使用していることもあるかと思います。

商標権侵害かと思ったら

商標権侵害にあたるか確認

他人が自分の登録商標と似ている商標を使っている場合、注意深く確認が必要です。商標の類似だけでなく、商品やサービスが類似しているかも重要です。しかし、自分の感覚だけで判断するのはリスクが高く、名誉毀損や信用毀損などで逆に訴えられる可能性もあります。

商標権侵害を疑ったら、専門家の判断を仰ぐことが重要です。法律や商標の専門家に相談し、適切なアドバイスを得ることで、商標権の保護と法的手続きについてより良い判断ができるでしょう。弁理士に簡易鑑定書を作成してもらいエビデンスとすることで、社内手続をスムーズに進めることができるかもしれません。

商標権の保護は企業やブランドの重要な資産であり、侵害に対しては適切な対応が求められます。不正使用の疑いがあれば、早期に対処することが重要ですが、専門知識を持たない場合は自ら解決するのは難しいこともあります。安易な対応は逆効果になることもあるため、専門家のサポートを頼ることで、安心して適切な対応ができるでしょう。

商標権侵害への対策1:相手方への警告

商標権侵害を発見した場合、相手に対して適切な警告を行うことが重要です。対応方法は状況によって異なります。強い姿勢で臨む必要がある場合は、内容証明郵便で警告書を送付します。一方、関係がある相手であれば、友好的な手紙や電子メールを使うことも考えられます。

警告の際には、相手との関係や商取引の背景を考慮して適切な内容を検討しましょう。攻撃的な姿勢は相手の協力を得ることを難しくすることもあるので、バランスを取ることが大切です。

警告を効果的にするためには、弁理士など専門家に相談することも有益です。専門家が法的な警告書を作成し、適切な方法で相手に届けることで、相手方の真摯な対応を促すことができます。商標権侵害を未然に防ぐためにも、素早く的確な警告手段を検討しましょう。

商標権侵害への対策2:判定請求

判定制度は、特許庁が法的拘束力のない意見を示す制度です。自社の商標権が侵害されているか、または他社の商標権を侵害していないかを特許庁に判定してもらうことができます。判定書は相手に対する警告の根拠として利用できるほか、自分の行為に対する反論材料としても有効です。

さらに、判定書は税関への申立書や情報提供書(侵害品の輸入取締り依頼)に添付することで活用できます。判定制度を利用することで、商標権侵害の有無を明確にし、相手に対する適切な対応を取ることができます。

判定請求から特許庁の判断を得るには6ヶ月から12ヶ月程度を要しますが、相手方との交渉が膠着している場合、訴訟に発展している場合、税関での輸入・輸出差止を行う場合など、有効な手段となり得ます。

商標権侵害と指摘されたら

警告(警告書・警告の手紙やメール)

商標権者からの警告は内容証明郵便での警告書や、通常の手紙、電子メールなどで送られてきます。侵害を指摘されたら、後々こじれないように迅速に内容を確認することが必要です。警告には真剣な意図が込められている場合もありますので、軽視せずに専門家のアドバイスを仰ぎ、適切な対応を取ることが重要です。警告書に記載された期限内に対応することで、訴訟などへの発展を回避し、円満な解決への道を築くことができます。

侵害に該当するかの検討

商標権侵害の指摘を受けたら、まず、相手方の商標権の存在を確認し、登録商標と自分の商標が同一または類似しているかをチェックします。更に、登録商標の指定商品・役務が自分の商品・サービスと同一または類似しているかも確認する必要があります。専門家の判断を仰ぐことも重要で、侵害に該当するかを正確に判断するためには、弁理士などのアドバイスが役立ちます。指摘内容を迅速に評価し、適切な対応策を立てることで、訴訟などのトラブルを未然に防ぐことができます。

相手方への対応

商標権侵害と指摘された場合、以下の対応が重要です。

  • 商標の使用停止を伝える:自己の商標が権利者の商標権に抵触すると判断したら、速やかに商標の使用を停止することを商標権者に伝えましょう。継続的な使用は損害賠償金が増加するリスクがあります。
  • 解決策の模索:侵害者から商品の回収など要求された場合、商標権者と交渉し、適切な解決策を見つけることが大切です。協議を通じて問題を解決する姿勢を示しましょう。
  • 自己の判断の理由を示す:自己の商標が商標権に抵触しないと判断した場合は、その理由を明確にして回答しましょう。論拠を示すことで相手方との認識の違いを解消する可能性が高まります。
  • 専門家のアドバイス:商標権侵害に関する対応は複雑でリスクが伴います。専門家である弁理士のアドバイスを仰ぎながら、適切な対応をすることが重要です。専門知識を持つ弁理士に相談しましょう。

商標権侵害の指摘は重大な問題です。迅速で的確な対応を心掛け、商標権の保護とトラブル回避を図りましょう。

商標権侵害訴訟

商標権侵害に対しては、いくつかの方法で救済を求めることができます。民事手続きでは、侵害行為の差し止め、損害賠償、不当利得の返還、信用回復のための措置などが求められます。また、別途刑事事件となれば、裁判の結果により刑事罰が適用される場合もあります。

差止請求

商標権侵害に対する差止めの方法は商標法第36条により規定されており、①侵害行為をする者に対するその行為の停止の請求、②侵害の恐れのある行為をする者に対する侵害の予防の請求、③侵害行為を組成した物の廃棄や侵害の予防に必要な措置の請求があります。侵害者の故意や過失がなくても侵害となります。商標権侵害が現実化し緊急性がある場合には、裁判所に仮処分を申立てることもできます。

損害賠償請求

商標を侵害した者に対して損害賠償を求めることができますが、その際には多くの事実を立証する必要があります。損害賠償額は立証が難しいこともあるため、法律で算定方法が定められています(商標法第38条)。

損害賠償を求める際には、侵害者の故意や過失を証明する必要はありません。商標権者は侵害行為がなかった場合に得られるはずの利益を算定し、それに侵害者の譲渡した模倣品の数量をかけて損害額とすることができます。また、侵害者が利益を得ている場合はその利益額を損害額として求めることもできます。さらに、利益が得られなかった場合でも、ライセンス料相当額を損害額として求めることができます。

商標権侵害の損害賠償請求は、立証が困難な場合もあるため、裁判所に仮処分を申立てることで緊急性を解決することも考慮されます。ただし、損害賠償額の算定は複雑なため、専門家のアドバイスを受けながら適切な手続きを行うことが重要です。

その他

商標権侵害された場合、商標権者は不当利得を返還する権利を持ちます。商標権者の信用が害された場合、裁判所は商標権者の要請により、信用回復の措置を命じることができます。例えば、商標権者の業務に影響を及ぼすような粗悪品が流通した場合、謝罪広告の掲載を求めることができます。

商標権侵害者は懲役刑や罰金刑に処せられる可能性もあります。刑事罰を求めることで、商標権の保護を強化できます。また、法人の場合も、侵害行為をした実行者だけでなく、企業自体に罰金刑が科される「両罰規定」が設けられています。商標権の守り手として、適切な措置を検討することが大切です。

商標権侵害されないために

商標権侵害を未然に防ぐためには以下の対策が重要です。

  1. Rマークの使用:自己の商標が登録商標であることを示すために、Rマークなどの登録を示す表示を商標に付けることで、他者に商標権の存在を明確に伝えましょう。
  2. 定期的なWEB検索:重要な商標について定期的にWEB検索を実施し、類似する商標の使用状況を把握します。早期に侵害の兆候を察知し、迅速な対応を心掛けましょう。
  3. こまめな対応:小さな案件であっても見過ごさず、こまめに商標の使用状況をチェックしましょう。侵害が見つかった場合は、迅速に警告を行うなど適切な対応を取ります。

これらの対策を実施することで、商標権の保護と侵害を未然に防ぐことが可能です。商標権侵害には早めの対応が重要なため、常に注意を払い対策を実施しましょう。

商標権侵害をしないために

商標権侵害を防ぐためには以下の対策が重要です。

  1. 商標調査の実施:ブランド名や商品名の選定時には、商標調査を行い類似する商標が既に登録されていないか確認します。
  2. 商標の登録:自己の商標を登録することが最も有効な手段です。登録することで、商標権の保護が強化され、侵害行為に対して法的な対応が可能となります。

これらの対策を講じることで、商標権の侵害を未然に防ぐことができます。商標権を保護し、ブランド価値を守るために、適切な対策を取りましょう。

国際的な商標権侵害


国際的な商標権侵害には重要なポイントがあります。まず、商標権は国ごとに独立しており、外国での商標権を保護するためにはその国での商標登録が必要です。さらに、海外での商標権侵害は損害賠償などの影響が大きくなるリスクが高いため、適切な対策が不可欠です。特に、海外から模倣品が輸入されるケースが多く見られるため、自社の商標を他国で登録することで、模倣品被害を拡大させないようにすることが重要です。国際的な商標権侵害に対しては、各国の法律や手続きを理解し、商標登録を行うなど、弁理士のサポートを得て適切な対策を講じることが必要です。

まとめ

商標権侵害された場合、迅速な対応が不可欠です。まず、自社の商標が他者によって侵害されたと気付いたら、詳細な証拠を収集し、商標権に抵触するかを確認しましょう。侵害行為が確認されれば、警告書の送付、裁判など法的な手段によって侵害を阻止することができます。弁理士や専門家の助言を仰ぎながら、慎重に対応を進めることが重要です。商標権侵害への対応は迅速さと的確さが求められるため、適切な措置を講じることが不可欠です。

商標権の侵害行為を指摘されたら、真摯に対応し、商標権者との交渉を試みることが重要です。商標権者からの警告書や通知には速やかに応じ、侵害を認める場合、侵害行為を中止することが求められます。対応が遅れると損害賠償請求など法的措置を受ける可能性が高くなります。また、適切な謝罪と解決策を提示し、再発防止策を実施することで紛争を収束させることが重要です。侵害にはならないと判断する場合、理由を明確に述べてその旨をはっきりと回答しましょう。ここでも、迅速さが解決のために重要な鍵となります。

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この記事を書いた人

木村 純平

木村 純平

2人目の子供の誕生をきっかけに弁理士を目指してから、早くも20年が経過しそうです。商標から始まり、意匠、著作権、現在の事務所に来てからは特許、実用新案も手がけるようになり、それぞれの分野でクオリティを上げ、ユーティリティプレイヤーとして重宝されるよう精進しています。