【解説】社名の商標登録はお済みですか?会社設立と商標登録

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building2006年の新会社法の施行に伴い資本金が1円から株式会社が設立できるようになり、いまや年間8万以上の会社が毎年新しく設立されています。つまり、1日200以上の新しい会社が生まれているわけです。今回は、会社の設立にあたって発生する社名に関わる商標の問題を取り上げたいと思います。

2006年の新会社法以前は、会社を設立する際にその会社名(商号)の登記にあたって、同一市町村内で、営業内容を同じにする同一または類似の商号を有する会社が存在する場合、その商号は採択できませんでした。しかし、新会社法により、会社登記のスピードを速めるため、この同一・類似商号禁止の制度は撤廃され、会社設立にあたり、ほぼ自由にその商号を採択できるようになりました。

しかし、登記するだけでその商号を自由に使用できるとは限りません。商号登記とあわせて、商号を商標登録したいときは、別途、特許庁に商標登録出願をする必要があります。ただ、商品・サービス(役務)が同一・類似の範囲で同一・類似の商標がすでに登録されている場合は、その登録を拒絶されます。したがって、せっかく設立した会社の名称が商標として使えない場合があるかもしれません(同一・類似の登録商標があると、そのまま使用した場合、故意でなくとも商標権侵害となるおそれがあります。)。

では、商号と商標はどういった違いがあるのでしょうか?商号が、営業を行うにあたり自己を表示する名称なのに対し、商標は商品・サービス(役務)を識別する標識(目印)です。その名前が会社に紐づけられるか、商品に紐づけられるか、といった違いがあります。しかし、実際には、商号が商標としての役割も果たす、つまり、需要者が会社名をみて、商品・サービスの購入を判断するといったことは普通に行われているところです。

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商号の商標的使用

商号の商標的使用を会社の使用状況からタイプ分けすると、以下のようなものになると思います。

  • 商号・商標一致型
  • 商号・商標分離型
  • 商号・商標階層型

商号・商標一致型

「商号・商標一致型」は、商号もしくは商号から派生した商標、例えば、商号から「株式会社」の文字を抜いたもの、それをさらにロゴ化したもの、を会社のメインのブランド名として商品に付したり、店舗名として使用したり、パンフレットに記載したりするような場合です。ブランド戦略として会社=ブランドを一体的に押し出している会社、商品・サービスの専門性が高い企業、商品・サービスの幅が狭い企業、単に社名をそのまま商品ブランドとして使用している場合などがあります。

このタイプのメリットは、ブランド価値の蓄積を集中化できるところです。商品・サービスの広告・宣伝を行うことにより、同時に会社名も周知となり、会社名がメディアなどに取り上げられると同時に商品・サービスの知名度も相乗的に上がります。それによって、効率的にブランド価値を蓄積していくことが可能です。

例えば、ソフトバンクグループ株式会社は、現在では携帯通信事業をメイン事業とする日本のトップブランドの一つですが、パソコン用パッケージソフトの流通事業に始まり現在まで、一貫して「ソフトバンク(Softbank)」のブランドを掲げ、創業者のカリスマ性と相俟って、事業グループの周知と一体となったブランド的価値を構築しています。

商号・商標分離型

「商号・商標分離型」は、商号とブランド名を分離し、商号とは何ら関連のないブランド名を商品・サービス名として展開するケースです。複数のブランドをもっていて、一つのブランドイメージに偏りたくない企業、アパレル業界の企業などに多くみられます。

このタイプのメリットは①とは逆に、分散のメリットがあります。1つのブランドイメージに固執することなく、多様なブランドを同時に展開することが可能です。また、ある一つのブランドのイメージが悪くなっても、他のブランドに与える悪影響を最小限にとどめることができます。

例えば、「UNIQLO」のブランドを展開する株式会社ファーストリテイリングは、低価格高品質商品の「UNIQLO」「GU」だけでなく、比較的高価格の「Theory」も展開し、それぞれ独自のブランド価値の構築に成功しています。

商号・商標階層型

「商号・商標階層型」は、①の発展型とも言えるものですが、商号に基づくメイン商標、いわゆるハウスマークと呼ばれる商標を上位として、下位に種々の商品・サービスブランドが紐付いているかたちです。自動車業界を例とするのがいいかもしれません。「TOYOTA」「NISSAN」「MAZDA」といったハウスマークとともに、各自動車のシリーズ名/商品名を、例えば、「TOYOTA」の「PRIUS」、「NISSAN」の「SKYLINE」といった形で併記し、商品の販売が行われています。

商標登録の必要性

このようにタイプ別に見た場合、上記②のタイプの商号については、商標登録する必要はありません。この場合、商号は商標として使用されていませんので、商標権侵害のおそれもないからです。しかし、①や③の場合は、商号を同時に商標として使用していることが明らかなので、商標登録していない場合は、他人の商標権を知らず知らずのうちに侵害している可能性があります。

これから会社を設立しよう、もしくは設立したばかりといった企業の場合、①のケースが多いのではないでしょうか。「同じ業種に同じような商品名・サービス名を使っている話は聞いたことがないから大丈夫」と思っていても、特許庁には毎年10万件の商標が登録されています。この中には実際には使われていないものも数多くありますが、たとえ使われていなくても権利としては有効であり、それは他人の事業を差し止める法的な根拠を有しています。

商号商標のブランド価値は会社の信用でもあり、貴重な財産です。そのブランド価値を商標権として明確な権利にしておくことにより、融資における担保として利用することもでき、事業譲渡する場合には資産価値を向上させることができます。
商標権侵害のリスクヘッジとして、または、会社の資産価値向上のため、商号の商標登録は検討に値するものです。心配になられた方は、ぜひ弊所にご相談ください。商号商標の登録の可能性や適切な使用方法など、状況にあわせた対応策をアドバイス致します。

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この記事を書いた人

木村 純平

木村 純平

2人目の子供の誕生をきっかけに弁理士を目指してから、早くも20年が経過しそうです。商標から始まり、意匠、著作権、現在の事務所に来てからは特許、実用新案も手がけるようになり、それぞれの分野でクオリティを上げ、ユーティリティプレイヤーとして重宝されるよう精進しています。