商標の国際登録出願(マドプロ出願)とは?国際商標登録制度の概要・仕組みを解説

この記事でわかること

  • マドプロ出願(商標の国際登録出願)とは何か:日本国内の基礎出願・基礎登録をもとに、1件の手続で複数国の商標保護を一括申請できるWIPO(世界知的所有権機関)の国際制度です。
  • 対象国は世界共通ではない:2026年8月時点でマドリッド同盟の加盟国・地域は117(カバー国数133)ですが、香港・マカオ・台湾は加盟していないため、これらの地域では個別出願が必須です。
  • コスト・手間を削減できる一方、制約もある:基礎出願・基礎登録との同一性が必要、登録後5年間は「セントラルアタック」のリスクがある、指定国・区分数が少ないと個別出願の方が安いケースがある、といった注意点があります。
  • 費用の目安:弊所の場合、1区分・米国+中国の2カ国でおよそ35万円前後からが目安です(詳細は本文の費用比較表を参照)。
  • 専門家に相談すべきタイミング:基礎出願の適格性判断、指定国の選定、現地代理人対応の要否などは、出願前に弁理士へ相談することでリスクを最小化できます。

マドプロ出願の全体フロー(タイムライン)

マドプロ出願は、基礎出願・基礎登録の確定から各国での権利化まで、おおむね以下の流れで進みます。

ステップ 手続内容 目安期間・窓口
①基礎の確定 日本での商標登録出願または登録(基礎出願・基礎登録)を用意する 随時
②国際出願 日本国特許庁経由、またはWIPOのオンラインシステム(Madrid e-Filing)から国際登録出願を提出 基礎の確定後すぐに可能
③WIPOでの形式審査 国際事務局(WIPO)が出願内容を形式的にチェックし、各指定国へ送付 数週間〜数カ月
④各国での実体審査 指定国ごとの特許庁・商標庁が自国の審査基準で審査 国により異なる(目安12〜18カ月)
⑤登録または拒絶 審査をクリアすれば指定国での商標登録と同等の保護が発生。拒絶の場合は現地代理人を通じて応答が必要 国により異なる
⑥維持・管理 更新(10年ごと)、名義変更、事後指定(保護国の追加)などをWIPO経由で一括管理 随時〜10年ごと

マドプロ出願と個別出願(現地代理人経由)の比較

比較項目 マドプロ出願 個別出願(各国ごと)
手続の窓口 日本の特許庁またはWIPOへ1件出願 各国ごとに現地代理人を通じて個別出願
費用体系 国際登録基本料金+指定国ごとの個別料金+日本の事務所手数料 各国政府料金+現地代理人手数料+仲介事務所手数料
管理の一元化 更新・名義変更等をWIPO経由で一括管理可能 国ごとに個別対応が必要
対象国 マドリッド同盟加盟国・地域のみ(117加盟/133カ国、香港・マカオ・台湾等は対象外) ほぼ全世界の国・地域が対象
基礎出願・登録との関係 必須(内容の同一性が必要) 不要(各国で独立して出願可能)
セントラルアタックのリスク 登録後5年間は基礎が消滅すると連動して失効するリスクあり 他国の権利状況に影響されない
少数国・少数区分での費用 割高になる場合がある 国・区分数が少なければ有利な場合がある

マドリッド制度(マドプロ出願)の詳細解説

マドリッド制度とは

マドリッド制度(商標の国際登録制度、通称「マドプロ」)は、1891年のマドリッド協定および1989年のマドリッド協定議定書に基づき、WIPO(世界知的所有権機関、本部:スイス・ジュネーブ)が運営する国際的な商標登録支援制度です。出願人は、自国での商標登録・出願(基礎出願・基礎登録)を基盤として、加盟国の中から保護を希望する国(指定国)を選び、1件の国際登録出願でまとめて手続を行うことができます。

2026年8月時点で、マドリッド同盟には117の締約国・機関(EU等の広域機関を含む)が加盟しており、これらがカバーする国・地域数は133に上ります。加盟国は世界貿易の大半を占める規模まで拡大しており、直近ではサウジアラビアが2026年に新たに加盟するなど、加盟国は現在も増加傾向にあります。

加盟国の範囲と対象とならない地域

マドプロは世界共通の制度ではなく、あくまで加盟国間の制度です。実務上特に注意が必要なのは、次の地域がマドプロの対象外である点です(2026年時点でも変更ありません)。

  • 香港:中国とは別個の商標登録制度を有しますが、マドプロでは商標権を取得できません。
  • マカオ:同じく独自の商標制度を有し、マドプロの対象外です。
  • 台湾:マドリッド同盟に未加盟のため、マドプロでは商標権を取得できません。

これらの地域で商標権を取得したい場合は、マドプロとは別に、現地代理人を通じた個別出願が必要です。

対象となる商標

マドプロによる国際登録では、文字、図形、絵柄、色彩、ロゴマークなど、日本で登録可能な商標であれば基本的に保護の対象となります。一部の加盟国では音や香りなどの非伝統的商標も保護対象です。また、防護標章もマドプロ出願の対象に含まれます。

出願の方法

国際登録出願は、①出願人の本国官庁(日本の場合は特許庁)を経由して書面またはオンラインで行う方法と、②WIPOが提供するオンライン出願システム「Madrid e-Filing」を通じて直接WIPO国際事務局へ提出する方法があります。Madrid e-Filingは日本の出願人・権利者も利用可能です。

マドプロ出願のメリット

  • 一括出願による効率化:1回の手続で複数の指定国に商標登録を申請でき、国際登録出願日がそのまま各指定国での出願日とみなされます。
  • 費用・手続の簡素化:出願費用をWIPOへの一括支払いで済ませられ、予算管理がしやすくなります。
  • 一括管理:名義変更、住所変更、更新などをWIPOのオンラインシステムで一元的に行えます。
  • 事後指定による保護領域の拡大:国際登録後に新たな加盟国を追加で指定でき、最初の出願よりも低コストで保護国を広げられます。事業拡大やターゲット市場の変化に柔軟に対応できる点が大きな利点です。

マドプロ出願の費用の考え方

個別出願とマドプロ出願では、費用の内訳が異なります。

方式 費用の内訳
個別出願 ①その国の特許庁の政府料金 ②現地代理人の手数料 ③仲介する日本の事務所の手数料
マドプロ出願 ①国際登録基本料金 ②指定国ごとの個別料金 ③出願手続を行う日本の事務所の手数料

いずれも指定商品・役務の区分数(範囲)によって費用が変動します。海外出願だからといって国内登録より極端に高額になるわけではなく、目安として国内登録(1区分・10年分登録料込み)が約15万円程度であるのに対し、中国などアジア諸国では同程度〜1カ国あたり25万円程度で登録できるケースが多くなっています。国・区分数が増えても、マドプロ出願であれば事務所手数料が割安に設定される場合が一般的です。

費用参考例(弊所の場合)

(1)国際商標出願(マドプロ出願)の費用参考例
区分数 費用目安
例1 米国、中国 1 約35万円
例2 米国、中国 3 約60万円
例3 米国、中国、タイ、EU 1 約60万円
例4 米国、中国、タイ、EU 3 約100万円
(2)個別出願の費用参考例
区分数 費用目安
例1 米国 1 約35万円
例2 中国 1 約15万円
例3 中国 3 約35万円
例4 香港 1 約20万円

※費用は為替レートやWIPOの設定費用により変動します。より詳細な金額は弊所にお見積もりをご依頼ください。

マドプロ出願の最新動向(2025〜2026年)

  • 加盟国の拡大:2026年8月時点でマドリッド同盟の加盟国・機関数は117、カバーする国・地域数は133に達しています(サウジアラビアが2026年に新規加盟)。
  • 出願件数の動向:WIPOの年次統計(Madrid Yearly Review)によれば、2025年の国際登録出願件数は世界全体で約64,150件(前年比約1.5%減)。上位出願国は1位米国(約11,000件)、2位ドイツ(約6,100件)、3位中国(約5,600件)、4位フランス(約4,000件)、5位英国(約3,900件)で、日本も上位10カ国圏内に位置し、前年比で増加傾向にあります。
  • 米国(USPTO)の手続動向:USPTOは2025年1月18日発効の商標出願料金改定において、USPTO標準の商品・役務記載一覧にない自由記述を用いる場合等に追加料金(区分ごと200米ドル等)を新設しましたが、マドプロ経由での米国指定出願(商標法第66条(a)出願)については、当面この追加料金の対象外とされています。米国を指定する際は、この取り扱いが変更されていないか出願時に確認することをおすすめします。

実務上の注意点・弁理士からのアドバイス

加盟国が限られている点を必ず確認する

マドプロで権利化したい国が加盟国かどうかは出願前に必ず確認してください。特に香港・マカオ・台湾は対象外であり、これらへの進出を予定している場合は個別出願を並行して検討する必要があります。

基礎出願・基礎登録との同一性に注意する

マドプロには、商標の態様・指定商品役務が同一(またはその範囲内)の日本の基礎出願・基礎登録が必要です。実務上、日本語文字を含む登録商標を海外で使う予定がない場合、ローマ字部分のみで新たに基礎出願を取り直すケースもよくあります。手持ちの登録・出願がそのまま海外展開に適した内容になっているか、事前の確認が重要です。

登録後5年間の「セントラルアタック」リスクに注意する

国際登録日から5年以内に基礎出願・基礎登録が拒絶・取消・無効・存続期間満了などにより失効すると、国際登録もそれに連動して失効します(いわゆるセントラルアタック)。5年経過後はこのリスクがなくなるため、少なくとも登録後5年間は基礎権利の維持状況に注意を払う必要があります。

指定国・区分数が少ない場合はコスト比較を

マドプロは指定国数が多いほど割安になる傾向がありますが、1〜2カ国程度の少数国への出願であれば、個別出願の方が総コストで有利になることもあります。日本の代理人がWIPO・現地手続を仲介する分の手数料も発生するため、出願前に個別出願との見積り比較をおすすめします。

現地からの拒絶理由通知には現地代理人が必要

各指定国での審査において拒絶理由通知(局指令)が発行された場合、その応答は当該国の現地代理人を通じて行う必要があり、当初の想定以上に追加費用が発生することがあります。あらかじめ拒絶対応時の追加費用の見込みも確認しておくと安心です。

言語と各国審査基準の相違

国際登録出願はWIPOの定める言語(英語・フランス語・スペイン語のいずれか)で作成する必要があります。また、各国の商標法・審査基準には相違があり、識別力の判断基準や使用証明の要否なども国によって異なります。マドプロによって出願手続自体は一本化されても、実体審査は各国ごとに行われる点を理解した上で、弁理士とともに国別の出願戦略を検討することが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. マドプロ出願と個別出願、どちらが安く済みますか?

A. 指定国・区分数が多いほどマドプロ出願が有利になる傾向があります。一方、1〜2カ国程度の少数国であれば個別出願の方が総額で安くなることもあるため、出願前に両方式での見積り比較をおすすめします。

Q2. 香港・台湾・マカオでの商標権はマドプロで取得できますか?

A. できません。これら3地域はマドリッド同盟の加盟国・地域に含まれていないため、現地代理人を通じた個別出願が必要です。

Q3. 日本の基礎出願が拒絶されたら、国際登録も無効になりますか?

A. 国際登録日から5年以内に基礎出願・基礎登録が拒絶・取消・無効等により消滅した場合、原則として国際登録もその範囲で失効します(セントラルアタック)。5年を経過すればこのリスクはなくなります。

Q4. 「事後指定」とは何ですか?

A. 国際登録後に、当初指定していなかった加盟国を追加で指定する手続です。最初の国際登録よりも低コストで実施でき、事業拡大や新市場参入のタイミングに合わせて保護国を柔軟に広げられます。

Q5. マドプロ出願の書類は日本語で作成できますか?

A. できません。国際登録出願はWIPOが定める言語(英語・フランス語・スペイン語のいずれか)で作成する必要があり、その後の各国官庁とのやり取りも日本語以外の言語で行うことになります。

まとめ・お問い合わせ

マドプロ出願は、複数国での商標保護を効率的に進められる有用な制度ですが、加盟国の範囲、基礎出願との同一性、セントラルアタックのリスク、少数国の場合のコスト比較など、出願前に検討すべきポイントが複数あります。海外展開の初期段階では、商標登録は模倣品対策だけでなく「予定通り事業を進めるためのリスク管理」としても重要です。他人に自社の商標を先に登録されてしまうと、進出の断念や商品タグの差し替え、損害賠償リスクなど、事業に直接影響する問題につながりかねません。

指定国・区分の組み合わせによって最適な出願方式(マドプロ/個別出願)や費用は異なります。海外での商標登録・マドプロ出願をご検討の際は、下記お見積もりフォームより弊所までお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

木村 純平

木村 純平

2人目の子供の誕生をきっかけに弁理士を目指してから、早くも20年が経過しそうです。商標から始まり、意匠、著作権、現在の事務所に来てからは特許、実用新案も手がけるようになり、それぞれの分野でクオリティを上げ、ユーティリティプレイヤーとして重宝されるよう精進しています。