商標法第3条は商標登録の要件について規定したものです。つまり、この規定をクリアしなければ商標登録出来ないという、商標制度を理解する上で、最も重要な規程と言えるものです。
この第3条全体で規定しているのは、登録できる商標というのは、以下の2つの要件をクリアしなければいけないということです。
- 「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」商標であること、
- 自他商品識別力(特別顕著性)があること、
「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」商標であること
商標というものは、使用して初めてその価値が生じるものですが、将来のことを考えて登録するということも十分あるため、登録にあたってその商標を実際に使用していることは、必ずしも必要ではありません。つまり、使用していなくても将来的に使用する意思があれば登録は可能です。さらに、指定商品・役務の範囲が広すぎなければ、出願時や登録時に実際の使用証明や使用意思を確認されることもありません。
ただし、平成19年の小売等役務制度の導入の際に、総合小売等役務、非類似の複数の小売等役務、8以上の類似群の広範な範囲の商品・役務を指定している場合、に商標の使用又は使用意思の確認が求められるようになりました。
どういった対応が必要かというと、実際にその商品・役務に関する業務を行っていることを示す広告や店舗の写真などの証拠を提出するか、業務を行っていない場合は、下のような「商標の使用を開始する意思」と「事業計画書」といった書面を提出することになります。
【出所:商標審査便覧41.100.03】
特別顕著性があること
ここで言う「特別顕著性」とは、商標のもつ自他商品又は役務の識別力を意味します。消費者・需要者は、同じ種類の商品(例えば、自動車やお菓子)の中から、商品名(商標)を手がかりに他人の商品と識別したうえで、「同じ商品名(同じ商標)が使われた商品なら以前に購入した商品と同じぐらい品質がいいだろう」と予測して、その商品を購入します。そして、その商品を使用してさらに満足が得られれば、その商品に対する信用はさらに蓄積し、再度同じ商品名の(同じ商標の付いた)商品を購入することになります。
この商標に信用が蓄積する、つまり、商標の価値が増加するサイクルの前提となるのが「識別」という商標の基本的な機能なのです。
したがって、この基本的な「識別」という機能を持たない商標、つまり、普通名称、慣用商標、産地名、品質の表示などは登録出来ないとされているのです。
使用による識別力(3条2項)
他方で、そもそも識別力が無い商品等の表示にも関わらず、商標として使用し続けるうちに、信用が蓄積され、消費者・需要者が識別できるようになる場合があります。こういった場合に、特別に登録を認める旨を3条2項は規定しています。
例えば、井村屋の「あずきバー」は、「あずき」を原材料とした「バー」(棒)状のアイスキャンディですが、その商品名(商標)は、原材料と形状を示すに過ぎない商標ということで、本来は登録出来ないものです。
しかし、井村屋の「あずきバー」は、40年以上も前から販売され、今では年間2億5000万本もの売り上げを誇る商品ですので、今や、消費者・需要者も「あずきバー」と言えば井村屋のアイスキャンディと認知されまでになっています。といった経緯から、使用によって識別力を有するようになったことが認められ、この3条2項を適用し登録されました。
平成25年1月24日判決 平成24年(行ケ)第10285号 審決取消請求事件
ただし、実務上、3条2項が適用されるのは全国的な知名度を獲得しなければ適用されませんので、かなりハードルの高いものと認識しておくべきでしょう。