中国において、日本のブランドだけでなく、世界のブランドの商標が模倣され、その商品が製造販売されているのは知られているところです。必ずしも著名な商標だけでなく、売り出したばかりの商品も商標模倣のターゲットにされる可能性があります。
中国における商標の模倣品対策について、以下に解説します。
[toc]
商標の模倣品とは
商標の模倣品とは、他人の商標を真似た商標を付して、もしくは、使用して商品の製造販売やサービスの提供を行うことをいいます。商標はラベルや一部のマーク部分だけ模倣すればよいので、技術の模倣である特許や商品全体のデザインである意匠よりも模倣が簡単であり、実際の摘発の理由も、他の知的財産権に比較して商標の模倣被害の件数は多いことが統計で確認できます。
模倣品対策の必要性
市場における模倣品を放置しておくと、本来販売できるはずだった商品の利益が損なわれます(逸失利益)。また、模倣品の多くは品質が低いため、当該ブランドの信用を低下させる結果となり、長期的な当該ブランドに関する中国におけるビジネスに悪影響を与えます。
よって、中国におけるブランド戦略において模倣品対策の必要性は非常に高くなります。
最近の模倣品事件の特徴
模倣手段の巧妙化
最近の商標の模倣品は、本物をそっくりそのままコピーするデッドコピーと比較し、巧妙に本物の商標を変えたり、図形や文字を加えて、商標権の効力範囲にはいらないようにする事案が増加しています。
また、たとえば、商標のラベルの製造、本体の製造、販売、製品の広告をそれぞれ別の会社が行い、商標権者が権利行使しづらい状況をつくるような事案も増加しています。
ECプラットフォームを利用した模倣品の販売
中国のEC取引は年々拡大しており、経済産業省のレポートでは中国のEC市場規模は11兆7600億元(2020年)といわれています。アリババグループのTmall、TaobaoなどのECプラットフォームが有名ですが、それらのプラットフォームを利用して多数の小売業者が販売活動を行っています。小規模の事業者でも簡便に商品の販売を開始できることや、模倣品の販売者と特定されても簡単に別の名前で販売を再開できるといった特徴から、模倣品の販売の温床となっています。
また、越境ECによって、日本へも比較的簡単に模倣品を販売することが可能です。
模倣品対策
模倣品の対策として効果的な以下の対策について説明していきます。
- 商標権の取得
- ブランディング(啓発活動)
- 模倣品の発見・調査
- 行政摘発(レイド)
- 警告状の送付
- 民事訴訟
- 刑事訴訟
- 税関登録と税関での差し押さえ
- ECプラットフォームへのクレーム
商標権の取得
模倣品対策は中国で商標権を取得していることが前提となります。中国での商標権の取得については、以下の記事で解説していますので、こちらを参考にして下さい。
ブランディング(啓発活動)
ブランディング(啓発活動)とは、自分の商標を周知させる、模倣品の情報を取引先、消費者、行政機関などと共有する手段を講じる、といったことによって、模倣品が発生しにくい環境を整えることです。
現地取引先、現地エージェント、中間業者などに以下のような説明・情報提供を行い模倣品に関わる行為の抑止、模倣品対策への協力を促します。
- ブランドにかかる知的財産権の所有状況
- 真正品にかかる商標などの使用方法(模倣品を判別するため)
- 模倣品が出た場合の方針
- 協力関係にある現地法律事務所の情報
専門誌、一般新聞紙等への広告宣伝の掲載により模倣品のリスクを啓発します。中国等における”展示会”を有効活用して、業界の模倣品対策の姿勢を効率的にPRします。
現地行政、警察などと良好な関係を築き、継続的な模倣対策を実施、協力してもらいます。

模倣品の発見・調査
模倣品の発見・調査には、模倣品を発見する体制を社内に整え、模倣品の早期発見を促すことが重要です。模倣品の対策を効果的に行うには、早期発見、早期対応は非常に重要なファクタとなります。
具体的には、以下のような方法があります。
営業担当社員に模倣商品のモニタリングを依頼、知財担当部署がその情報を集約するといった模倣品発見の仕組みを組織内に構築する
商品の販売先、品種、個数などを把握し、真正品が販売され得ない場所を把握する
廃棄管理を徹底する(OEM工場で故意に不良品として扱い、それらを横流しするケースがあります)
個装箱の外側にホログラムシールを貼ることで、関税での真正品と模倣品判別を容易にする。
展示会で模倣品を調査し、その場で行政担当者に報告することで、模倣業者をその場で排除する。
タオバオ・アリババなどの大型通販サイトを定期的に検索し、発見した場合、削除申請する。
ある程度の情報が得られれば、さらに情報を得るために現地の調査会社に調査を依頼するのも有効です。模倣者の名称、住所、会社の規模、模倣品がどこに存在するか、など後述する行政摘発や警告状を送付する際に重要な証拠、判断材料となります。
行政摘発(レイド)
行政摘発(レイド)とは、行政機関が商標権侵害の模倣品を没収、廃棄などの行政処分を行うことをいいます。中国では商標権侵害の行政摘発は主に地方の工商行政管理局が執り行い、申請によるもしくは自発的な摘発を行います。行政摘発による模倣品対策は「行政ルート」と呼ばれています。

行政摘発のメリット
行政ルートは他の手段よりも比較的期間が短くて済み、効果的に模倣品の没収・廃棄が行われ、費用も比較的低いというメリットがあります。申請には一定の証拠が必要ですが、十分な証拠でなくとも申請可能であることもメリットの一つです。
模倣品が販売されている店舗や工場、倉庫が特定できる場合は有効な手段です。
行政的発のデメリット
模倣品の場所が特定できない場合、ECプラットフォームで販売しているものの、開示された住所には模倣品の実物は存在しない場合があります。そのような場合、申請が通らないか、行政摘発が行われても成果が得られないことがあります。損害賠償の請求はできません。
それぞれの地方の工商行政管理局で、判断基準が異なっていたり、積極性がことなることもデメリットの一つです。大都市圏や工業地帯の工商行政管理局は比較的積極的に動いてくれますが、そうでない場合、消極的な場合があります。
警告状の送付
警告状とは、模倣品を製造、販売などしている事業者に商標権侵害である旨の警告を行う書面です。通常は、現地の弁護士を通じて送付します。
模倣品を製造、販売する事業者が一定の規模の大きさの事業者で、企業信用を重視する場合、効果があります。
しかし、警告状を無視、放置されることも多いです。たとえば、ECサイトの模倣品の販売を行っている事業者に警告状を送付したところ、いったん、販売を止めるものの、別の名前で販売を再開したようなケースもあります。
民事訴訟
民事訴訟とは、商標権に基づいては製造、販売の差し止め、損害賠償の請求などを裁判所に申し立てることです。行政的発の「行政ルート」に対して、「司法ルート」と呼ばれています。
判決に不服がある場合は、控訴可能(原則、二審制)です。証拠として、公証付の購入した模倣品、模倣品の宣伝資料、模倣品の取扱書、
パンフレット、模倣業者のホームページで掲載された侵害情報に関する資料、鑑定機関或いは知財代理事務所による侵害鑑定など、を収集します。

商標権侵害訴訟のメリット
商標権侵害訴訟のメリットは、損害賠償請求が可能なので、模倣品による利益の損失を補えることです。また、模倣行為が明確でない場合であっても、裁判官によって事情を考慮した判断が行われるため、一定の効果が期待できます。
商標権侵害訴訟のデメリット
商標権侵害訴訟のデメリットは、問題解決に時間を要する点と、比較的大きなコスト、特に弁護士費用が生じる点です。
刑事訴訟
刑事訴訟とは、商標権侵害を刑事告訴することです。
権利者は自訴も可能ですが、公安局に告発する方が得策です。被害額が多額の事案に限定され、同一商標・同一商品の侵害に限定されます。
行政摘発の案件も刑事訴追基準に達したものは公安局に移送されます。被告は判決に不服がある場合は、控訴可能(原則、二審制)です。

税関登録と税関での差し押さえ
税関登録とは、中国から海外に輸出される製品を取り締まる役割を担う税関に、商標権を登録し、商標権侵害の模倣品を適切に取り締まってもらうことをいいます。
商標権者は、税関知財保護システムに権利者情報および商標権情報などを登録します。各税関は、システム上に登録されている情報を共用し、管轄区域における侵害荷物を発見した場合、登録された権利者または権利者の代理人に連絡を行います。権利者または代理人が税関に差押えを申請した場合、税関は侵害者の荷物を没収して荷主に処罰を与えることが可能です。

輸出入どちらの物品に対しても行われますが、約95%が輸出品です。この事実からも中国を起点に模倣品が世界に拡散していることがわかります。
模倣品が発見された場合、税関の通知から3営業日程度でその真偽を判断しなければならないため、すぐに回答できる体制を整えておくことも重要です。
税関による模倣品の発見は、模倣品ルートの解明にもつながります。
ECプラットフォームへのクレーム
メジャーなECプラットフォームの多くは、知的財産権を侵害する製品に対して権利者がクレームを申し立てる手段を設けています。クレームが受け付けられる場合、販売ページの削除などを行うことができます。
ただし、改変したマークなど商標権侵害か否かの専門的な判断が必要な場合、権利者のクレームにECプラットフォームが応じるかは定かではありません。明確な商標権侵害に対しては有効な手段です。
費用も代理人に依頼する場合の代理費用だけで済みます。
事業者間の連携
事業者間の連携により、効果的な模倣品対策を行っている事例もあります。たとえば、以下のような対策です。
個々の事業者には知的財産専門のスタッフがいない場合、事業者間共同で知的財産専門スタッフを設置したり、各社の情報の集約で、模倣品を発見した際の迅速な対応を可能にする。同時に、知的財産スタッフの独立化をはかり、競業他社への機密情報の漏洩を防止する。
複数の事業者での模倣品関連情報の共有や、権利者団体への情報の集中・共有によって、効率的・効果的な対策の実施を円滑化するため、模倣品対策関連情報を共有するポータルサイトを設ける。
コスト削減、迅速な対応のため、税関対応・大型通販サイトへの対応を共通の知的財産スタッフが一括して行う。
コスト削減、業界としての厳格な態度を行政側に表明するため、業界団体で共同摘発を実施する。
まとめ
中国では実際多くの商標の模倣品が横行しています。一度対策を講じても、モグラたたきのように別の模倣品が出現することも多くあります。模倣品対策は、継続的な対策が必要となります。簡単に諦めず、自分のブランドの価値の維持および向上のため、模倣品対策にチャレンジしてみましょう。
商標権取得の費用は?
直接出願の場合、現地費用(現地の特許事務所・法律事務所、特許庁に支払う費用)と日本の特許事務所の費用で25万円~、マドプロ出願の場合、トータルで25万円~の費用が発生します。
※上記費用はあくまで弊所を通じて行う場合の参考費用で、区分数、商標の種類、為替レートなどで変動します。是非お見積もりのお問い合わせをください。マドプロ出願の場合、同時に出願する国が多いほど割安になります。