今年も商標審査基準が大幅に見直されます ~ 結合商標の類否 ~

昨年に続き今年度も行われていた商標審査基準の大幅な改訂作業がまとまり、改定案に対するパブリックコメントが募集されています。

「商標審査基準」改訂案に対する意見募集について
http://www.jpo.go.jp/iken/170126_shohyo_kizyunkaitei.htm

昨年度が商標法第3条を中心に改訂作業が行われましたが、今年度は第4条を中心に改訂作業が行われました。

商標審査基準改訂案の概要について
http://www.jpo.go.jp/iken/pdf/170126_shohyo_kizyunkaitei/gaiyou.pdf

では、その中から結合商標の類否判断(4条1項11号)の箇所を取り上げさせてもらいます。

つつみのおひなっこや事件

Hinaなぜ類否判断の中でも結合商標を取り上げるかと申しますと、ある結合商標の類否判断に関する最高裁の判決が出て以来、商標業界が若干混乱をきたしているからです。

ある判決とは、「つつみのおひなっこや事件」と言われる最高裁判決です。

最判平成20年9月8日(平成19年(行ヒ)第223号)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/773/036773_hanrei.pdf

この判決の中で、最高裁は、「商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである」として、商標の構成部分の一部を抽出した類否判断を非常に限定すべきであるかのような判断を行いました。

結合商標の類否

そもそも結合商標の類否とは何かというと、Aの部分とBの部分が結合してA+Bの構成になっている商標と商標Aもしくは商標Bは似ているか否か、という問題です。つつみのおひなっこや事件」判決は、文言だけをみますと商標Aと商標A+Bが類似となるケースは特別な場合に限られますよ、と言っているわけで、その後の判決や審決においても、この判断を踏襲し、上記のようなケースで、商標A+Bが非類似となるケースが顕著となったのです。

商標審査基準改訂の議論

商標審査基準の検討を行っている「産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会商標審査基準ワーキンググループ」の議事録を読みますと、「つつみのおひなっこや事件」判決を文言通り、そのまま審査基準に盛り込むのは少し行き過ぎなんじゃないか、という特許庁の姿勢が見えていて面白いです。

特許庁が作成した検討資料によれば、商標には、まず、①不可分的に結合していない商標と②不可分的に結合されている商標の2種類あって、「つつみのおひなっこや事件」が言っている商標の構成部分の一部を抽出して類否判断が許されないのは、②の不可分的に結合されている商標の場合のことを言っているだけで、①不可分的に結合していない商標については今まで通り一部を抽出して類否判断してよい、との解釈が提示され、「つつみのおひなっこや事件において示された規範をあえて基準として記載する必要はないのではないか」との考えが示されています。

これは、今までの特許庁の審査においては、商標の構成部分の一部を抽出した類否判断が通常行われていたわけで、この従来の審査と「つつみのおひなっこや事件」の最高裁判決を如何に矛盾無くまとめるかという特許庁の苦心の跡が伺えます。

というわけで、今後の特許庁の審査は、商標の構成部分の一部を抽出した類否判断が従来通り行われるものの、その判断の前提として、結合商標が不可分的に結合しているか否かの観点が重要となっていくものと思われます。

プライムワークス国際特許事務所 弁理士 木村純平

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この記事を書いた人

木村 純平

木村 純平

2人目の子供の誕生をきっかけに弁理士を目指してから、早くも20年が経過しそうです。商標から始まり、意匠、著作権、現在の事務所に来てからは特許、実用新案も手がけるようになり、それぞれの分野でクオリティを上げ、ユーティリティプレイヤーとして重宝されるよう精進しています。