事後無効でやりなおし!?

平成18年(ム)第10002号, 平成19年(ム)第10003号特許権侵害差止再審請求事件 平成20年7月14日 知的財産高等裁判所

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原判決で認識のない別異の無効理由による無効確定が、確定判決の再審事由となりうる。
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[判旨]
◆特許権侵害差止請求事件
 ・本件特許:特許第2662538号
 ・発明の名称:生海苔の異物分離除去装置
    出願日:平成6年11月24日(特願平6-315896号)
    登録日:平成9年 6月20日
 ・原告:株式会社親和製作所
  被告:フルタ電機株式会社
◆事件経緯
H10.5.28 東京地裁に差止請求提起(平成10年(ワ)第11453号)
      ∵本件発明1(請求項1)および本件発明2(請求項2)に抵触
      ※均等の主張あり
H12. 3.23 認容判決
      ∵本件発明1,2のそれぞれに均等
H12..   東京高裁に控訴提起(平成12年(ネ)第2147号)
      →§36④又は⑥の違反の無効理由を主張
H12.10.26 棄却判決
      ∵一審判決と基本的に同旨、明らかに無効とはいえない
H12..   最高裁に上告受理の申立て(平成13年(受)第221号)
H13.4.11 上告不受理 →原判決が確定
                  ※損害賠償請求
                 (平成13年(ワ)第14954号)


(本件発明1に対する無効審判)
H15.6.16 本件特許1について無効審判請求(無効2003-35247)
H16.4. 6 請求不成立審決  ※損害賠償請求について和解(H15.10.22)
H16..   東京高裁に審決取消訴訟提起(平成16年(行ケ)第214)
H17.2.28 認容判決(審決取り消し)
H17.5.12 特許庁にて本件特許1の無効審決
H17..   知財高裁に無効審決取消訴訟提起
H17.11.9 棄却判決
H18..   最高裁に上告受理の申立て(平成18年(行ヒ)第24号)
H18.4.4  上告不受理  →本件特許1の無効審決が確定

(本件発明2に対する無効審判)
H17.4.26 本件特許2について無効審判請求(無効2005-80132)
H18.7.19 無効審決
H18..   知財高裁に審決取消訴訟提起(平成18年(行ケ)第10392号)
H19.3.28 棄却判決
H19..   最高裁に上告受理の申立て(平成19年(行ヒ)第200号)
H19.7.19 上告不受理  →本件特許2の無効審決が確定

◎再審請求
H18.4.28 知財高裁に原判決(全部)に対する再審の訴えを提起(第1事件)
H18.11.29 原判決のうち、本件特許1に基づく請求に関する部分について再審開始決定
H19.8.13 知財高裁に原判決(全部)に対する再審の訴えを提起(第2事件)
     →再審請求の趣旨を変更:原判決のうち本件特許2に基づく請求に関する部分
H20.3.10 原判決のうち,本件特許2に基づく請求に関する部分について再審開始決定
H20.7.14 原判決(確定判決)の取り消し(逆転判決)

◆再審原告の主張(要約)
 本件特許の無効審決が確定したことにより、本件特許権は初めから存在しなかったものとみなされるため(§125)、侵害の判断は成立し得ない。
 よって、原判決を取り消したうえ、再審被告の請求を棄却すべき。

◆再審被告の主張(要約)
1)控訴審判決において本件特許無効の主張が排斥されたため、原判決の確定により本件特許の有効性は決着ずみであり、別個の無効理由であっても蒸し返しは許されない。
  ∵キルビー判決より、裁判所は独自の判断可
2)民事訴訟の紛争解決機能に基づき、特許の有効性も含めて審理判断をした確定判決による決着は尊重される必要があり、無効審決が確定しても覆されるべきではない。
3)原判決前から無効審判請求が繰り返された経過からみても、本件特許の有効性は決着済みというべき。無効審決の確定による権利消滅の抗弁を主張することは、信義則に反し、権利の乱用であり許されない。
4)本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求訴訟において訴訟上の和解が成立した。本件特許を無効とする審決が確定したことによる再審請求は信義則に反する。

◆裁判所の判断(要約)
(再審被告の主張1、2に対して)
・再審開始決定が確定した後の本案の審理においては、判決の確定力自体が失われている。

・特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、キルビー判決後においても、特許が有効であることを前提とした上で、権利濫用の抗弁となる無効理由の存在の明白性を判断するのであり、特許の有効無効それ自体を判断するものではない。このため、権利濫用の抗弁と無効審決の確定による権利消滅の抗弁とは別個の法的主張と理解すべき。

・再審原告が前審控訴審で権利濫用の抗弁として主張した無効理由と、無効審決の理由とされた無効理由とは異なるものであり、しかも原判決の当時、無効審決の無効理由とされた公知例の存在を再審原告が認識していなかったことは当事者間に争いがない。したがって、再審原告が無効審決の確定による権利消滅の抗弁を主張することが無効理由の主張を蒸し返したものであるとは認められない。

(再審被告の主張3に対して)
・無効審判の請求人及び請求期間には制限がなく、また、特許無効審判の確定審決の登録による同一事実及び同一証拠に基づく対世的な一事不再理効の制約(特許法167条)に抵触しない限り、同一人であっても再度の無効審判請求ができる等の無効審判制度の趣旨に照らすならば、無効審判請求を繰り返し行ったとの一事をもって直ちに再審原告と再審被告との間において無効審決がされる前に本件特許の有効無効問題に決着がついたものと扱うべき理由はないし、本件全証拠を検討しても、再審原告の無効審判請求が濫用的なものであってそれによる法律効果の主張を再審開始後の本案の審理において制限しなければならない事情は窺われない。

(再審被告の主張4に対して)
・本件和解が成立した当時、再審原告がした本件特許についての無効審判請求が特許庁に係属しており、かかる状況を前提として、再審原告は再審被告に対し和解金を支払うものの、無効審決が確定しても再審被告は和解金の返還義務はないとされ、他方、上記無効審判請求はそのまま維持され、また、将来の無効審判請求を禁止する条項もなかったというのであるから、本件和解においては、原判決の認めた侵害行為の差止め等に関して何らの合意も成立しておらず、また、前提とされていなかったものと認めるのが相当である。したがって、将来本件特許を無効とする審決が確定しても、原判決の認めた侵害行為の差止め自体はそのまま維持することが本件和解の内容であるとの再審被告の上記主張は理由がない。

以上によれば、本件再審請求が本件和解の趣旨に反するとは認められないから、本件再審請求が信義則に反するとの再審被告の主張は理由がない。

[解説]
 本件は、キルビー判決後、特許法104条の3の立法前に原判決が確定したものです。
 原審の控訴審においては特許法36条違反の無効理由の主張もなされましたが棄却され、さらに最高裁においても上告不受理となり原判決が確定しました。一方、これと並行して損害賠償請求が提起されましたが、その控訴中に和解が成立しました。
 しかし、原判決確定後に本件発明1について請求された無効審判がその和解後も継続し、審決取消訴訟も経てその無効審決が確定しました。この無効審判の請求認容判決がなされた頃、主引例を同じくした別の無効審判請求が本件発明2についてもなされ、審決取消訴訟も経てその無効審決も確定しました。これを受けて再審原告が再審の訴えを提起し、原判決(確定判決)の取り消しに到ったものです。
 事後的な無効審決の確定も再審事由(民訴§338①八)に該当すると考えられる一方で、紛争の早期解決を図るキルビー判決の趣旨、また後の特許法104条の3の立法趣旨とは相反するものともいえ、注目すべき判決であるといえます。
 また、この再審においては訴訟上の和解における和解条項にも触れられており、損害賠償の不返還のみならず、将来の無効審判請求を禁止条項などの精算条項の必要性についても考えさせられる参考事例であるといえます。

弁理士 松尾 卓哉
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