新しいタイプの商標
新しいタイプの商標とは「動き商標」「ホログラム商標」「色彩のみからなる商標」「音商標」「位置商標」で、商標の形式の多様化や諸外国での採用状況から、日本でもそれらの商標登録が平成27(2015年)年4月1日から制度として整えられたものです。
位置商標とは
位置商標「新しいタイプの商標」の一つです。これは、商品やサービスに付される標章(文字、図形、記号、立体的形状、またはこれらの結合、あるいはこれらと色彩との結合)と、その標章が商品等の特定の位置に付されることの両方を保護する商標です。
具体的には、単にマークがあるだけでなく、「そのマークが商品のどこに付されているか」という、マークと位置の組み合わせによって、事業者の業務上の信用(ブランドイメージ)を保護することを目的としています。
位置商標のメリット
位置商標のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 識別力が高まる可能性がある:標章それ自体は一般的で識別力が低い場合でも、それが商品等の特定の位置に継続的に付されることで、消費者が他者の商品と区別できるようになり、識別力が向上する可能性があります。これにより、通常の商標では登録が難しいようなケースでも、位置商標として出願することで登録の可能性が高まることがあります。
- 他者の模倣を排除する強力な権利:商品が通常はマークを付さないような特徴的な場所に標章を付している場合、他者がその位置デザインを模倣した際に、標章自体が異なっていても商標権侵害を主張できる可能性があります。これは、特定の位置デザインをブランドとして展開する企業にとって、より強力な保護となり得ます。
- 消費者への訴求力:標章が商品のどの位置に付されているかは、消費者が一目で判断できる分かりやすい情報であり、その商標は消費者の印象に残りやすく、広告的価値も高いと言えます。
この位置商標は、意匠制度における「部分意匠」と近い概念とも言われています。
位置商標の出願・登録の方法
位置商標の出願・登録は、他の商標と同様に特許庁に対して行われますが、その特性からいくつかの重要な考慮点があります。
1. 出願時の記載事項
位置商標を出願する際には、願書に「商標の詳細な説明」を具体的に記載することが必要かつ重要です。この詳細な説明が、登録される商標の範囲を定めるからです。
裁判となった例から挙げれば、「対流形石油ストーブ事件」では、商標が「石油ストーブの燃焼部が燃焼する時に、透明な燃焼筒内部の中心領域に上下方向に間隔をあけて浮いた状態で、反射によって現れる3つの略輪状の炎の立体的形状からなる」と詳細に説明されました。また、「イエローステッチ事件」では、「靴の上部とソール(靴底)部分が接した境界部分の領域に靴の外周に沿って配された黄色の破線状の図形からなる」と記載されました。
2. 登録のための識別力判断
出願された位置商標は、特許庁によって商標としての識別力があるかどうかが審査されます。主な判断基準は商標法3条1項3号と3条2項です。
- 商標法3条1項3号(記述的商標)該当性: この規定は、商品の形状や特徴を「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、原則として商標登録できないと定めています。 これは、その形状が商品の機能や美感を高めるために選択されたものだと消費者が認識する場合が多いことや、同種の商品を扱う誰もが使用したいと考える形状であるため、特定の人に独占させることが公益上適切ではないという考えに基づいています。 例えば、「対流形石油ストーブ事件」では、炎の立体的形状がストーブの美感を向上させ、暖房効果を高める機能を持つと判断され、一般的な形状の範囲内であるとして、この号に該当すると判断されました。 また、「イエローステッチ事件」では、黄色のステッチが革靴やブーツの「普通に用いられる形状その他の特徴のみからなる標章」であり、一般的な製造方法で靴を製造する者であれば誰でも使用したいと思うものだと判断され、この号に該当するとされました。
- 商標法3条2項(使用による識別力)該当性: もし商標法3条1項3号に該当し、本来識別力がないと判断された商標でも、長期間にわたる使用の結果、消費者がその商標を見ることで「あ、この商品はあの会社の製品だ」と認識するようになった場合(使用による識別力の獲得)には、例外的に商標登録が認められます。これは、その商標に化体した業務上の信用(ブランド価値)を保護するためです。 この識別力の獲得を判断する際には、商標の形状、使用期間や使用地域、商品の販売数量、広告の期間と規模、さらには類似する形状を持つ他の商品の存在など、さまざまな事情が総合的に考慮されます。
- 「対流形石油ストーブ事件」では、販売シェアや出荷台数が低いこと、商標(炎の形状)が商品を使用しているときにしか現れず、店頭で認識する機会が限定されること、広告も少なかったことなどから、使用による識別力は認められませんでした。
- 「イエローステッチ事件」では、黒い革靴に用いられた場合には相当程度の認知度を得ていると評価されましたが、出願された商標が下地の色彩を特定していなかったため、黄色やベージュ色の靴にも権利が及ぶとみなされ、黒色以外の靴における認知度が証明できなかったため、全体としての識別力獲得は否定されました。ただし、この判決では、黒い下地における黄色のステッチの視認性の高さ、積極的な模倣品対策、そしてアンケート調査による認知度の証拠が肯定的に評価されており、今後の識別力立証において重要な示唆を与えています。
3. 出願戦略上の留意点
効果的な位置商標の出願と登録を目指すには、以下の点に留意した戦略が考えられます。
- 標章と商品の相互関係の明示:単にマークの形状を説明するだけでなく、それが商品に対してどのような相対的な大きさで、どの程度のコントラストで表示されるかなど、商品と標章の相互関係を明確に記述し、それが識別性につながることを主張することが重要です。
- 色彩の指定:特に色彩が識別性の重要な要素となる場合、「イエローステッチ事件」の判例が示唆するように、特定の色と特定の位置、そして特定の商品を組み合わせることで識別力を強化できる可能性があります。下地の色彩も含めて具体的に記述することで、より明確な識別力を主張できるかもしれません。
- 使用による識別力獲得を見据えた証拠収集:もし出願商標が当初識別力を欠くと判断される可能性がある場合でも、将来的な3条2項による登録を目指して、継続的に使用実績を積み重ね、その視認性を高める工夫や積極的な模倣品対策を行うことが有効です。特に、商品が使用されていないと見えないような位置商標の場合、広告や販売戦略において、使用状態を明確に示し、消費者に商標を認識させる工夫が不可欠です。客観的な証拠として、アンケート調査なども有効な手段となり得ます。
位置商標の登録例
具体的に位置商標の登録例を挙げます。
(a)海外の登録例
海外での登録例をいくつか挙げてみます。
![]() | 米国登録第3029127号 (アディダス社) | 商標は、指定商品(Tシャツ,ジャケット,コート,スエット,シャツ)の袖に沿った3本の平行線からなる、と特定されています。 |
![]() | 米国登録第2726253号 (リーバイ・ストラウス社) | 商標は、シャツのポケットの外側に配置された服用の小さなマーカー又はタブから構成される、と特定されています。 |
![]() | 欧州登録第001027747号 (プラダ社) | 商標は、履物の底の後方部分の一部に配置される赤い線、と特定されています。 |
(b)日本の登録例
日本でも法改正以後、以下のような商標が登録されています。
![]() | 登録第5804314号 (シーズ・ホールディングス社) | 商標は、商品の包装用容器の本体側面の上半部に付された赤色の図形からなる、と特定されています。 |
![]() | 登録第5807881号 (エドウイン社) | 商標は、ズボンの後ろポケットの左上方に付され、「EDWIN」の欧文字が表された赤い長方形のタブ図形からなる、と特定されています。 |
![]() | 登録第5808808号 (富士通社) | 商標は、閉じた状態の蓋体の開口部側の上面の稜線内側に付された図形及び蓋体の上面の中央部に付された図形からなる、と特定されています。 |
位置商標のメリット
- 識別力が高まる
位置商標のメリットは、まず、標章(文字や図形など)を商品等の特定の位置に付すことで識別力を高めることができる点です。上にあげた外国の登録例ではただのライン(もしくは単色の色彩のついたライン)やタブで、それ自体で登録を受けようと思うと識別力の点で、かなり難しいでしょう。しかし、標章がいつも商品の同じ位置にあることで需用者が他人の標章と見分けることができるようになる、つまり、その分識別力が高まると言えますので、登録の可能性も高まってきます。
現在の日本の位置商標の登録例では、付された標章自体が識別力のある文字や図形であるケースばかりで、まだこの効果を示すような登録例はありませんが、いずれ、標章だけでは識別力を認められるには難しい位置商標の登録例が多く登録されるものと思います。
- 他人の商標を排除する
商品の通常は付さないような場所に標章を付した商標であって、それを他人が真似した場合、標章自体が似ていなくても、商標権侵害を主張できる可能性があります。標章を変わった場所に付したデザインの商品を展開している場合、位置商標はより強力な権利となるでしょう。
- 商標としてシンプルでわかりやすい
商品のどの位置に標章が付してあるかというのは、一見で判断できる非常にわかりやすい情報で、その商標は需要者への訴求力のある商標と言えます。商品のデザインを検討する際に商標を付する位置も検討することで、より広告的価値の高い商標を採択することが可能です。
ぜひ新しく採択された位置商標制度を活用し、より効果的な権利取得を目指してください!!
商標登録の費用
商標の出願、登録(10年)には44,900円~の印紙代(国に支払う額)と特許事務所などを通じて行う場合その手数料が発生します。手数料は事務所によって異なりますので見積りをとるとよいかもしれません。弊所の費用はお問い合わせフォームもしくはお電話でお問い合わせください。