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「カンボジアで特許が取得しやすくなる」とは?

執筆者 : 長谷川綱樹

 

アンコールワット今日、面白いニュースを見ました。日本で認められた特許がカンボジアで実質的に審査なしに認められるようになる、というものです。

 

「日本の特許に『フリーパス』 審査なしで登録 カンボジアと覚書」(SankeiBiz 5月10日配信)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160509-00000012-fsi-bus_all

 

この件について、経済産業省もニュースリリースを出しています(特許庁は経済産業省の外局です)。

 

「カンボジアで特許が取得しやすくなります」(経済産業省ウェブサイト:5月9日付発表)

http://www.meti.go.jp/press/2016/05/20160509001/20160509001.html

 

内容は、カンボジア工業手工芸省(現地の特許庁に相当)と日本国特許庁の間で協定が結ばれた結果、日本で登録された特許をカンボジアでも出願している場合、出願人からの申請があれば、実質的に無審査でカンボジアの特許を与える、というものです。

 

本来、特許などの知的財産は、「属地主義」という「各国毎に権利が発生するという考え方」がとられており、特許出願人は特許を希望する個々の国々に出願を行って、個別に審査を受ける必要があります。そして、各国毎に審査が行われて、最終的に登録(=特許)されるかどうかが決まります。

今回はその原則から外れて、日本で特許が認められたものは、現地での審査を受けることなく特許を受けられるようになります。

 

背景には、カンボジアは現地登録機関の審査体制が整っておらず、ほぼ全ての特許出願が未審査となっているという状況があるようです。カンボジアは日本の審査能力を利用して、自国の特許出願の処理を円滑化させようと考えたようです。そしてそれは、日本企業にとってもプラスとなるため、日本の特許庁もそれを認めたわけです。

 

ちなみに、国をまたいでこうした協定を結ぶことができたのは、両国の特許の登録要件が共通していたことがあります。

例えば、特許の登録要件の一つに「新規性」があります。これは、特許出願における発明が、その出願前に日本国内又は外国で(=世界中で)公然知られたものである場合、新規性がないとして登録を受けることができません。現在、この「新規性」は、世界共通の特許要件となっています。

つまり、日本で登録を受けた特許は、日本の審査機関によって新規性を満たしていると判断されており、カンボジアは日本の審査結果を信頼できるものと認めたことで、今回の協定が結ばれたわけです(もちろん、他にいくつも登録要件はありますが、同様のことが言えます)。

 

実際、こうした協定と同じことが、国際特許出願でも行われています。共通する登録要件について、ある国の特許庁が行った審査結果(調査結果)を他国の特許庁が利用して、自国の特許付与の判断資料としています。今回、それを個別の国間で行っているにすぎません。

 

以上からすれば、「カンボジアで特許が取得しやすくなる」というよりも、「これまで進んでいなかったカンボジアの特許審査が進みやすくなる」というのが正しいようです。そもそも、日本で特許が取れるような発明でなければいけないわけなので。

 

最後に、SankeiBizの記事では、同様の制度を意匠や商標についても広げる考え、と書いてありましたが、意匠はともかく、商標の場合は少し話が違うんじゃないかと思います。

意匠は新規性が登録要件となっているため可能性はありますが、商標にはそもそも新規性という概念がなく、登録要件にもなっていません。また、商標はその国の言語や文化、習慣に大きく影響を受けるため、各国毎に登録可否の判断が異なる場面が多いのが現状です。そのため、「日本で登録されたから外国でも登録できる」という判断にはなりません。

ちなみに、経済産業省のニュースリリースには「今後、同様の協力を、審査体制が十分に整備されていない他の新興国にも拡大させる」とはありましたが、商標については特に言及されていません。念のため、特許庁に確認してみましたが、今のところ商標については対象外とのことでした。

「商標」についての言及は記者さんの勇み足かもしれません。「商標に広げてどうするの?どうなるの?」と心配された方はとりあえずご安心ください。

 

プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

  • この記事を書いた人

長谷川綱樹

30歳になるまで、知財とは全くの別分野におりましたが、一念発起して弁理士となり、商標専門で現在に至ります。 そのせいか、法律よりも「人の気持ち」のほうに興味があります(いいのか悪いのかわかりませんが)。 商標は事業活動と密接に関係していて、関わる人々の「気持ち」が大きく影響します。「気持ち」に寄り添い、しっかりサポートできる存在でありたいと思っています。 出願案件では「取得する権利の最大化」を目指して、商標のバリエーションや将来の事業展開の予定など、丁寧にお話を伺います。 係争案件では「いかに円満に解決するか」を重視して、目先の勝ち負けだけでなく、将来的な問題解決を意識して対応して参ります。 経歴など詳しくはこちらを

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