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頂きものの使い方としてはいかがなものか。 - 家紋の商標登録の是非 -

執筆者 : 長谷川綱樹

mitokamonここ最近、ブログのテーマに使えるニュースがないな、と思っていたら、「商標とは何か」を考えるのにちょうどいいニュースが見つかりました。「家紋を商標登録できるのか?」という問題です。

「水戸徳川家の家紋に似た商標登録 特許庁に異議の申し立て」(NHK NEWS WEB:11月4日付)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161104/k10010755161000.html

記事によれば、テレビ時代劇『水戸黄門』等でも有名になった(?)水戸徳川家の家紋「丸に三つ葉葵」とよく似た商標が、水戸市のイベント会社によって登録されたため、水戸徳川家15代当主が理事長を務める公益財団法人が、その登録に対して異議申立を行った、とのことです。

特許庁データベースJ-PlatPatで検索したところ、その登録商標は登録第5810969号ではないかと思います。ひとまず、実際の登録商標をご覧ください。

reg-5810969【出所:特許庁】

いかがでしょうか?個人的には、「あの印籠の家紋」と同じといってもいいくらいで、どこが違うのかよくわかりません。「よく登録できたな」というのが最初の印象です。

ちなみにこの商標の出願人は一般企業(株式会社)ですが、インターネットで検索してみると、水戸の伝統芸能「水戸大神楽」と関係があるようです。

茨城県教育委員会ウェブサイトによれば、この「水戸大神楽」は茨城県指定の無形民族文化財で、現在、柳貴家正楽社中さん等がその芸を継承されているそうです。詳しくはわかりませんが、商標権者はこの方々と関係が深い企業のようです。記事中の「御用神楽司」となった、との記載からすると、水戸徳川家から家紋を使用する許可が出ていた可能性があり、人の家紋を勝手に登録した、というケースではなさそうです。

「水戸大神楽」(茨城県教育委員会ウェブサイト)
http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/bunkazai/ken/mukeiminzoku/11-27/11-27.html

家紋は商標?登録してもいいの?

とはいえ、そもそも家紋を商標登録してよいのでしょうか?また、家紋って登録できてしまうのでしょうか?ここで思い浮かんだのが、精密機器メーカーの島津製作所の社章です。

島津製作所は「丸に十の字」の島津家の家紋を社章としています。しかし、島津製作所は京都の会社で、薩摩の会社ではありません。「島津」を名乗って同じ家紋を使っているのには理由があるようです。創業者の初代島津源蔵さんは京都の出身で、大名の島津家とは血縁ではありませんが、創業者の祖先である井上惣兵衛尉茂一氏が島津家の大17代当主、島津義弘から家紋と「島津」の姓を与えられているそうです。こちらも、もともとの家から家紋の使用許可を受けていました。

ちなみに、島津製作所はかなり早い時期に商標登録をしています。特許庁データベースによれば、一番古い「丸に十の字」マークの登録商標は1912年11月2日に登録されています(今から100年以上前!)。島津製作所の創業は1875年ということなので、その時点でもう40年近く事業をしており、取扱商品や事業の範囲について周知性(需要者の間に広く認識されていること)を獲得していた可能性があり、登録するに足る事情があってもおかしくありません。

要は、「丸に十の字」のマークが付いている商品を見たお客さんが、「これは島津製作所の商品だな」とわかるなら商標登録してもよい、というのが基本的な考え方です(その商品が誰によるものか=商品の出所がわかる)。

もちろんこれは、商標登録するための必須条件ではありません。例えば、ある商品にある商標が付けても、買う人がその商品は誰が作ったのか全くわからない、ということもあります。それならそれで、そのマークは「誰が登録してもよい」ということができるので、早い者勝ちで登録を認める、という制度になっています(先願主義)。

つまり、島津製作所のケースでは、商標出願したとき、既に「丸に十の字」のマークが有名(周知)になっていたのでしょう。当時、島津家の家紋がどれだけ周知だったか、また、当時の審査基準がどうだったかはわかりませんが、審査官が「登録に足る」と判断したのでしょう。

一方、今回のケースはどうでしょうか。地方の伝統芸能ということで、その地域内である程度の周知性はあったのだろうと思いますが、全国的に見てどうかはわかりません。また、「丸に三つ葉葵」の家紋について、水戸徳川家をイメージしない人はどれだけいるでしょうか。『水戸黄門』のテレビシリーズは終わってしまいましたが、今でも多くの人々がその出所を「徳川家」とイメージするのではないかと思います。とすれば、いわゆる「歴史上の人物」に近いものと考えて、商標法4条1項7号で拒絶してもよいのではないでしょうか。

徳川家や島津家のように、他人に家紋を与えることがあったとしても、それはあくまでも家紋を使うことを認めたにすぎず、その独占(商標登録)まで認めたわけではないはずです。島津製作所のケースは、実際に「島津製作所」のマークとして育ってしまった、という事情があるので難しいところですが、特許庁さんには、基本的には、登録しない方向で審査を行ってほしいと思います。

ちなみに、私の父の実家に墓参りに行くと、そのお寺の中にあるお墓の半分近くに同じ家紋が付いていたりします(どれが誰のお墓だかよくわからないくらい)。本来、家紋というのは、その地域で「家」や「一族」を表す記号というもので、全く別であっても(何らかの由来で)同じ家紋を使用する家も多くあるわけです。そのため、登録商標・商標権のように、全国的に効力を発揮するものとは相容れないものではないかと思っています。

プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

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  • この記事を書いた人

長谷川綱樹

2020年弁理士会商標委員会委員長。2005年弁理士試験合格。日本弁理士会(JPAA)、日本商標協会(JTA)所属。1971年生まれ。

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