日本の特許実務において「拡大先願(29条の2)」は、他人の後願を排除する規定となります。しかし、米国特許法(AIA:米国改正特許法)において日本の拡大先願に対応する条文「102条(a)(2)」は、日本とは少し異なる性質を持っています。
本記事では、両制度の違いについて解説します。
1. 「拡大先願」とは何か(日本の特許法29条の2)
日本における拡大先願制度は、後願のあとに公開された先願の明細書等に記載された発明と「同一」の発明について、後願に特許を認めない制度です。
- 目的: 先願の明細書等に記載された発明が公表された以上、後願は新しい技術を公開するものではないため、新しい発明の公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨から、後願の発明に特許が付与されないようにするものです。
- 適用範囲: 実質的に先願と「同一」の発明に限られます。
- 例外: 先願と後願で出願人または発明者が同一である場合には適用されません。
2. 米国102条(a)(2)の特異性:進歩性の根拠になるか否か
日本と米国の大きな違いは、「その先願の文献を用いて進歩性(自明性)の拒絶理由を構成できるか」という点です。
| 比較項目 | 日本 29条の2(拡大先願) | 米国 102条(a)(2) |
| 先行技術としての性格 | 新規性の判断のみに使用される | 新規性(102条)および自明性(103条)の両方に使用される |
| 判断基準 | 請求項と先願の「同一性」を判断 | 他の公知文献と「組み合わせて」自明性を判断できる |
| 例外 | 出願人または発明者が同一である場合、適用除外 | 発明の所有者または発明者が同一である場合、適用除外 |
3. 実務上の留意点:米国での「103条拒絶」への対応
日本では、他人の先願の内容に「少しの工夫を加えた発明」であれば、29条の2の適用を回避できる可能性があります。
しかし米国では、他人の先願(102条(a)(2))に記載された内容と、別の公知文献(102条(a)(1))を組み合わせて、自明性(103条)の拒絶理由が通知される可能性があります。
結論
日本の「拡大先願」と米国の「102条(a)(2)」では、先行文献として扱われる条件が似ていますが、先行文献の影響力は米国の方が大きいものとなっています。
参考文献
・特許庁(JPO):審査基準 拡大先願(特許法第29条の2)
・USPTO:MPEP 2120.01 Analysis of Claims Under AIA 35 U.S.C. 102 and 103

