用途発明のサポート要件・実施可能要件

平成20年(行ケ)第10304号 審決取消請求事件 平成21年8月18日 知的財産高等裁判所

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「樹脂配合用酸素吸収剤」という用途発明についてサポート要件・実施可能要件が満たされるには、発明の詳細な説明に当該樹脂一般について本件発明の作用効果を裏付ける記載が必要である。
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[判旨]
 原告は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に欠け、また、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に欠けると主張する。
 特許法36条4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」と定めるところ、本件発明のように、特定の用途(樹脂配合用)に使用される組成物であって、一定の組成割合を有する公知の物質から成るものに係る発明においては、一般に、当該組成物を構成する物質の名称及びその組成割合が示されたとしても、それのみによっては、当業者が当該用途の有用性を予測することは困難であり、当該組成物を当該用途に容易に実施することができないから、そのような発明について実施可能要件を満たすといい得るには、発明の詳細な説明に、当該用途の有用性を裏付ける程度に当該発明の目的、構成及び効果が記載されていることを要すると解するのが相当である。
 発明の詳細な説明には、本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂をエチレン-ビニルアルコール共重合体とした場合の記載があるにすぎない。発明の詳細な説明に、エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般について、本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認めることはできず、その他、そのように認めるに足りる証拠はない。
 以上によると、発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項に定める実施可能要件を満たすものと認めることは到底できないというべきである。
 特許請求の範囲の記載が特許法36条5項1号に定めるサポート要件に適合するものであるか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、発明の詳細な説明に、当業者において、特許請求の範囲に記載された発明の課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるか否か、又は、その程度の記載や示唆がなくても、特許出願時の技術常識に照らし、当業者において、当該課題が解決されるものと認識し得るか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
 本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂がエチレン-ビニルアルコール共重合体である場合はともかく、その余の樹脂一般である場合についてまで、発明の詳細な説明に、当業者において本件課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるということはできず、また、本件出願時の技術常識に照らし、当業者において本件課題が解決されるものと認識し得るということもできないといわざるを得ない。
 以上によると、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法36条5項1号に定めるサポート要件を満たすものと認めることは到底できないというべきである。
 そうすると、「本件発明の効果を奏しない樹脂を包含する点で明細書の記載に不備があるとはいえない」とした本件審決の判断は誤りである。
[解説]
 本事件の争点は、「本件発明に係る特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に欠けているか、また、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に欠けているか」である。
 本件の請求項1は、「還元性鉄と酸化促進剤とを含有し且つ鉄に対する銅の含有量が150ppm以下及び硫黄の含有量が500ppm以下であることを特徴とする樹脂配合用酸素吸収剤。」である。すなわち、本件発明は、「樹脂配合用酸素吸収剤」という用途発明である。本件発明について実施可能要件が満たされるには、発明の詳細な説明に、酸素吸収剤を適用する樹脂一般について、本件発明の酸素吸収剤を適用することが有用であること、すなわち、当該樹脂一般について、本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされていることを要すると解すべきである。
 発明の詳細な説明には、エチレン-ビニルアルコール共重合体については本件作用効果を裏付ける事項は記載されているが、樹脂一般については、本件作用効果を裏付ける事項は記載されていないし、示唆もされていない。
 そうすると、「本件発明に係る特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に欠けている」との裁判所の判断は妥当であるといえる。同様に、「発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に欠けているか」との裁判所の判断も妥当であるといえる。
 本判決は、用途発明のサポート要件及び実施可能要件を解釈した点で興味深い判決である。

弁理士 松本 武信
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