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小田原で売っている蒲鉾なのに「小田原かまぼこ」じゃない!?地域団体商標の訴訟事件

執筆者 : 長谷川綱樹

地域団体商標制度が導入されてから10年が経過しました。その間、多くの商標が登録された結果、トラブルも少しずつ増えているようです。今回の事案も、その中の一つです。

「地域商標『小田原かまぼこ』を『無断使用』と販売差し止め求める 業者側『登録前から使用』」(産経ニュース:5月27日付)
http://www.sankei.com/affairs/news/160527/afr1605270029-n1.html

「『小田原かまぼこ』巡り訴訟」(タウンニュース 小田原版:5月21日付)
http://www.townnews.co.jp/0607/2016/05/21/332976.html
(こちらのほうが詳しいです。)

内容は、地域団体登録商標「小田原蒲鉾」「小田原かまぼこ」を持つ小田原蒲鉾協同組合が、その商標を無断で使用したという業者に対して販売の差止めや損害賠償(約5,000万円!)等を請求したものです。

kamaboko
訴訟提起されたのは、神奈川県南足柄市の食品会社「有限会社 佐藤修商店」とその関連会社で小田原市栢山にある「株式会社 小田原吉匠総本店」です(両社は代表者が同一人)。私は神奈川の出身ですが、地理的にはこれら被告側が”小田原かまぼこ”と称するのはどうか?と思ってしまいます。南足柄市はそもそも小田原ではないし、もう一方も小田原市内ではありますが、かなり内陸です。もともとは海のそばで今の場所に移転したのならいいですが、どうなのでしょうか。
一方、小田原蒲鉾協同組合の組合員13社の場所を調べてみると、有名な鈴廣さん以外は皆海のそばに会社や店舗を構えています。なお、鈴廣さんも創業時は海側で、その後、今の場所に移転したそうです。

記事によれば、被告側は「商標登録される以前から名称を使用していたので、権利の侵害にあたらない」と反論しているようなので、被告側が自社の製品に「小田原蒲鉾(かまぼこ)」という表示をしていたことは事実のようです。そうなると、今回の訴訟では「被告側がいつから『小田原蒲鉾(かまぼこ)』と称する製品の製造販売をしているのか」がポイントになります。
これは、地域団体商標は、商標権者である組合がその商標を出願する前から同商標を使用している者に対しては効果が及ばないためです(いわゆる「継続的使用権」と言われます)。

商標法第32条の2 1.他人の地域団体商標の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

組合の持つ「小田原蒲鉾(かまぼこ)」の登録商標は、いずれも2010年4月14日に商標出願されています。とすれば、被告側は、それ以前より「小田原蒲鉾(かまぼこ)」の使用を開始している旨反論できれば、勝てる可能性「は」あります。

一方、組合側には次の一手があります。それが上記した条文にある「不正競争の目的」の有無です。例えば、被告側が蒲鉾の製造販売を開始したのが最近で、既に「小田原蒲鉾(かまぼこ)」というブランドが広く知られた後にそれにただ乗り(フリーライド)している場合には、継続的使用権は認められない、ということになります。とすると、被告側が蒲鉾の製造販売を開始するに至った理由というか根拠が問題となることでしょう。もし、被告側が組合員の誰かから蒲鉾の製法を教わっていて、品質的にも遜色ないものを製造している等の合理的な理由があれば、継続的使用権が認められる可能性もあるでしょう。

ただ、もしそうであれば、なぜ被告側の佐藤修商店と小田原吉匠総本店は組合の構成員ではないのか、という疑問がわいてきます。というのも、同組合のような事業協同組合は「加入自由の定め」というものがあり、理由なく構成員資格を持つ者の加入を拒否したり、現在の構成員が加入した際の条件よりも厳しい要件を課したりしてはいけない、と規定されています。つまり、両社が同組合の規定する要件をクリアしていれば、組合に加入して、堂々と「小田原蒲鉾」と称することができたわけです。実際のところはどうなんでしょうか。

いずれにせよ、これらの点が訴訟の中で主要な論点として争われるものと思われます。裁判の結果を待ちたいと思います。

プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

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  • この記事を書いた人

長谷川綱樹

30歳になるまで、知財とは全くの別分野におりましたが、一念発起して弁理士となり、商標専門で現在に至ります。 そのせいか、法律よりも「人の気持ち」のほうに興味があります(いいのか悪いのかわかりませんが)。 商標は事業活動と密接に関係していて、関わる人々の「気持ち」が大きく影響します。「気持ち」に寄り添い、しっかりサポートできる存在でありたいと思っています。 出願案件では「取得する権利の最大化」を目指して、商標のバリエーションや将来の事業展開の予定など、丁寧にお話を伺います。 係争案件では「いかに円満に解決するか」を重視して、目先の勝ち負けだけでなく、将来的な問題解決を意識して対応して参ります。 経歴など詳しくはこちらを

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