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商標における「チャイナリスク」? - 「大江戸温泉物語」の場合

執筆者 : 長谷川綱樹

onsenここのところ、さまざまな分野で「チャイナリスク」と言われていますが、もちろん、商標の分野にも「チャイナリスク」はあります。古くは「青森」や「クレヨンしんちゃん」の商標が第三者に登録されたという騒動から、表に出ていないものでも、日本由来の多数の商標が中国で第三者に登録される事件が起きています。そして最近、「大江戸温泉物語」のケースがニュースで取り上げられました。
「上海の大江戸温泉『許可得てる』 日本側は『事実無根』」(朝日新聞DIGITAL:12月25日付)

http://www.asahi.com/articles/ASJDT4195JDTUHBI00J.html

「上海“大江戸温泉物語”許可資料公開し反論」(日テレNEWS24:12月24日付)

http://www.news24.jp/articles/2016/12/24/10349910.html

「上海『大江戸温泉』が『くまモン』無断使用、県が抗議」(Exciteニュース:12月26日付)

http://www.excite.co.jp/News/world_g/20161226/Tbs_news_77581.html

 

ポイントが多すぎてどこから触れればいいのか難しいですが、経緯は、東京お台場等にある温浴施設「大江戸温泉物語」と同名の温浴施設が中国・上海にオープンしたことについて、日本側(大江戸温泉物語株式会社)が自身とは「一切関係ない」とコメントを出したことがはじまりです。

それに対して、上海側は「関連会社が大江戸温泉物語社と業務提携を結んだ」とか「関連会社を通じて名称使用権を取得した」とか「東京の店舗で従業員の研修を行った」などと反論し、さらには同ブランドを使用して温浴施設を営業する許可を得たこと示す「公認証明書」を開示しました。双方の意見が真っ向から対立していて、どうやら争いが長引きそうな雰囲気が漂っています。

しかも、上海の施設では熊本県のマスコットキャラクター「くまモン」の装飾がされていて、それに対して熊本県が抗議をしたという、まさにツッコミどころ満載なニュースです。

このニュースを聞いた最初の感想は、「上海側が言う『関連会社』って何者?」というところでしょうか。上海側がブランドの使用許諾を得たことの根拠として「公認証明書」なるものを開示していますが、この書類はどういう位置づけのものなのでしょうか。大江戸温泉物語社の会社印はあるようですが、見たところ白黒なので、この書面は写しのはずです。そもそも、この印影は本物なのでしょうか?また、実際に押印された書類はあるのでしょうか。すくなくとも、開示されたものからはわかりません。

また、仮に日本側が本当に関わっているのであれば、従業員を東京で研修させるだけでなく、実際に日本側のスタッフが現地に行って細かく指導する等、現場でのコミュニケーションがあるはずです。で、もしそういったことがあれば、店舗内のデザインにくまモンを勝手に使うなんてことを日本側のスタッフが許すわけがないと思います。

<事件は新たな展開に!?>

と、普通に考えれば、圧倒的に上海側の分が悪いと思ってしまいます。しかし今日、これまでの見立てが崩れてしまいそうな記事が出てきました。

 

「日本のパクリ? 上海の『大江戸温泉物語』に行ってみた」(livedoor NEWS:12月27日付)

http://news.livedoor.com/article/detail/12468300/

 

この記事は、とある日本人が実際に上海の「大江戸温泉物語」に“潜入”したレポートです。後半で現地スタッフに身分を明かして取材しており、その中で現地スタッフが「オープン前に中国側の従業員12人が東京に研修に赴いて」いることや、「東京からも日本人が従業員の指導に上海に来ていた」ことを明かしていた、とあります。この発言が事実かどうかはわかりませんが、その後の日本側(大江戸温泉物語社)への電話取材の内容を見ても、同社の「一切関係ない」というコメントの信憑性が、若干ながら揺らいでいるような気もします。

その後の熊本県への電話取材を見ても、このレポーターの方は人々が疑問に思っている点について的確に取材されていて、必ずしも上海側が全て悪いわけではないのでは?と思いました。

とはいえ、双方が対立していることは事実ですし、上海側の言い分が全て正しいわけでもないでしょう。今後を興味深く見守っていきたいと思います。

ちなみに、「大江戸温泉物語」という商標は中国で出願・登録されているのでしょうか。現地商標局のデータベースを検索してみましたが、何も検出されませんでした。ということは、まだ登録はされていないはずで、直近に誰かが出願しているのかもしれません。もし上海側企業が先に商標出願していた場合は、日本側は異議申立などの対抗措置をとることになるでしょう。そして、もし上海側企業ではない他の誰かが商標出願をしていた場合には...。この点、新たな火種の予感がします。

プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

 

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  • この記事を書いた人

長谷川綱樹

30歳になるまで、知財とは全くの別分野におりましたが、一念発起して弁理士となり、商標専門で現在に至ります。 そのせいか、法律よりも「人の気持ち」のほうに興味があります(いいのか悪いのかわかりませんが)。 商標は事業活動と密接に関係していて、関わる人々の「気持ち」が大きく影響します。「気持ち」に寄り添い、しっかりサポートできる存在でありたいと思っています。 出願案件では「取得する権利の最大化」を目指して、商標のバリエーションや将来の事業展開の予定など、丁寧にお話を伺います。 係争案件では「いかに円満に解決するか」を重視して、目先の勝ち負けだけでなく、将来的な問題解決を意識して対応して参ります。 経歴など詳しくはこちらを

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