業界内では以前から有名な話でしたが、とある出願人(U氏という個人とB社という法人で、両者は住所が実質的に一緒)が、話題になった言葉やそのバリエーションについて商標出願を大量にしている件について、ついに特許庁がアナウンスを出しました。
「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」(特許庁:5月17日付)
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm
ざっと内容をまとめると、一部の出願人が行っている他人の商標の先取り出願について、(時間はかかりますが)出願却下処分としているので、もし自分の商標が出願されていても、登録を断念することのないようご注意ください、というものです。
弁理士の中で、数年前よりこの件は話題になっていまして、「Uさんの件に絡んだことある?」などと半ばネタにしていたようなところもありました。
とはいえ、実際に出願されたしまった方や、出願を処理しなければならない特許庁の方々からすれば、迷惑極まりない問題です。
例えば、株式会社かんぽ生命保険は、CM等で使用しているフレーズ「人生は夢だらけ」(商願2016-000105)をB社に出願されてしまっています。ちなみに、かんぽ生命さんは出願していないようです(なお、キャッチフレーズについて商標出願の必要があるか、という議論はここでは触れません)。
また、北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)は「北海道新幹線」(商願2016-000588)をB社に出願されています。JR北海道は「菓子」について商標登録済であり、それ以外にも、まだ登録にはなっていないようですが、「携帯電話機用ストラップ,キーホルダー,文房具類,印刷物,袋物,かばん類,布製身の回り品」についても、B社より先に商標出願しています。ただ、B社はJR北海道が登録・出願していない商品等についても出願しているので、トラブルの火種となり得ます。
しかし、記事にあるとおり、多くのものは出願手数料が支払われておらず、時間はかかるものの、直に出願は却下処分とされています。この件に関する記事・ブログの中に、「話題になった商標を片っ端から出願して、本来の持ち主から何かしらコンタクトがあった場合のみ出願料を支払って、権利を主張する方法では?」というコメントがありましたが、それを防ぐには、むしろ、彼ら(U氏とB社)に商標出願されてもむやみに騒がず、じっと出願が却下されるのを待つ、という対応が現実的ではないかと思います。
実際、多くの出願は、仮に出願手数料が支払われたとしても、何かしらの拒絶理由に該当するとして登録される可能性が低いものです。被害(?)に遭われた方は、決してあきらめず、時間をかけてご対応ください。特許庁はあなたの味方です。
いずれにせよ、事業をされている法人・個人の方は、ご自身のマーク(となり得るもの)については、彼らに目をつけられる前に、早めに商標出願されることをお勧めします。
余談ですが、彼らが登場してからというもの、我々弁理士が依頼人に商標出願をお勧めする際、「こういう人達がいますから、積極的に商標出願をご検討ください」という話をすることが増えました。商標制度上、「他人に取られる前に取る」というのが大原則ですが、実際にこういう問題があるということで、出願の必要性がグンと高まっているのが現状です。これは、見方を変えれば、彼らがいると迷惑する反面、結果的に、我々の仕事を後押ししていると言えなくもありません。この点、少々複雑な気分です。