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「水戸徳川家の家紋」商標登録問題の結果 - 家紋の商標登録の是非について -

執筆者 : 長谷川綱樹

昨年11月に、水戸徳川家の家紋に似た商標が水戸のイベント会社によって登録されたため、水戸徳川家15代当主が理事長を務める公益財団法人が異議を申し立てた件について、ついに特許庁の判断が出ました。

「水戸徳川家の家紋と似た商標 特許庁が登録取り消し決定」(NHK NEWS WEB:3月2日付)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170302/k10010895521000.html

「徳川家の家紋にそっくり イベント会社の商標取り消し」(朝日新聞デジタル:3月4日付)

http://www.asahi.com/articles/ASK323TMQK32UJHB00L.html

 

特許庁はイベント会社の商標登録を取り消す決定をしましたが、この結果は「予想通り」のものでした。というのも、異議申立の審理経過で「取消理由通知」が出ていたからです。

取消理由通知とは、異議申立を受けて商標の登録可能性を再検討した結果、特許庁が登録を取り消すべきと判断した場合に出ます。この通知に対して商標権者は反論することができますが、反論が認められたケースは非常に少なく、ほとんどが取消決定となっています。今回の件もご多分に漏れず、反論はされたようですが取消決定となっています。

 

登録が取り消された理由は...?

気になるのは取消理由が何かですが、決定書がまだ公開されていないので記事の内容から推測してみます。

NHK NEWS WEBでは、「水戸徳川家の家紋は著名なものであり、会社が登録した商標は、これと極めて類似し、混同されるおそれもある」「会社がこの商標を使って独占して商品の販売などを行えば、公共の利益に反する」となっています。朝日新聞デジタルには「イベント会社の商標が公益財団法人『徳川ミュージアム』(東京都)が登録している著名な紋様と誤認してしまう恐れがある」「イベント会社が商標を使って独占的に商品の販売をすれば公共の利益に反する可能性がある」となっていて、理由付けが少々異なります。

どちらも「公共の利益に反する」という結論部分は共通していますが、NHK NEWS WEBでは「(登録商標は関係なく)水戸徳川家の家紋は著名なもの」であり、類似した商標を使用すると「混同されるおそれもある」から、この商標を登録して独占を認めると「公共の利益に反する」という理由付がされています。商標法4条1項7号が適用されたのだろうとスムーズに理解できます。

一方、朝日新聞デジタルでは「『徳川ミュージアム』が登録している著名な紋様と誤認してしまうおそれがある」とあり、この「登録している著名な紋様と誤認」という言い方は商標法的に不明確です。登録商標と類似するなら商標法4条1項11号、(登録有無を問わず)周知な商標と誤認混同するおそれがあるなら商標法4条1項15号、公の秩序又は善良の風俗(=公序良俗、社会公共の利益)に反するなら商標法4条1項7号が適用される、と規定されているので、これでは適用条文が15号なのか7号なのかはっきりしません。ただ、「公共の利益に反する」とある以上、商標法4条1項7号なのでしょうが、早く決定書を確認したいところです。

 

今後の家紋の商標登録はどうなる?

ちなみに、今回の取消決定で結論が出るわけではなく、商標権者側(イベント会社)は今回の決定に不服がある場合、知的財産高等裁判所に出訴することができます。とはいえ、判断が覆る可能性は低いのではないかと見ています。過去の経緯からして、イベント会社は「葵の御紋」を使うことは認められている(お許しを得た)としても、独占することまで認められたわけではないと考えるのが自然だからです。

本件はこれまで“無法地帯”だった家紋の登録可否について判断をしたモデルケースとなり得ると見ています。今回の結果を受けて、今後、家紋からなる商標の登録は難しくなる可能性があると思います。さらに言えば、既に登録を受けたものであっても権利行使に制限がかかるかもしれません。具体的には、既に登録された家紋の商標に対して商標法4条1項7号を根拠に無効審判を請求できる余地が出てきた、と考えています。これまでよりも厳格に商標としての周知著名性が求められるものと予想されます。

前回の記事でも言いましたが、個人的には「家紋は商標登録しにくくてよい」と思っています。そもそも家紋は地域で「家」や「一族」を表す記号であって、複数人で使用されるものです。中には、異なる地域で別の一族が同じ家紋を使用していることもあります。こうした事情を考慮すれば、商標の本質的機能(自他商品等識別機能、出所表示機能)、独占適応性(特定人による独占使用を認めることが公益上適当か否かという商標登録可否の判断基準)を具備しないものがほとんどなので、原則的に、全国的な独占排他権である商標権、商標登録には馴染まないと思っています。

 

<ブランドの保護は、商標専門弁理士へ!>
プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

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  • この記事を書いた人

長谷川綱樹

30歳になるまで、知財とは全くの別分野におりましたが、一念発起して弁理士となり、商標専門で現在に至ります。 そのせいか、法律よりも「人の気持ち」のほうに興味があります(いいのか悪いのかわかりませんが)。 商標は事業活動と密接に関係していて、関わる人々の「気持ち」が大きく影響します。「気持ち」に寄り添い、しっかりサポートできる存在でありたいと思っています。 出願案件では「取得する権利の最大化」を目指して、商標のバリエーションや将来の事業展開の予定など、丁寧にお話を伺います。 係争案件では「いかに円満に解決するか」を重視して、目先の勝ち負けだけでなく、将来的な問題解決を意識して対応して参ります。 経歴など詳しくはこちらを

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