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「日本の」特許制度に大欠陥!?- どうしても訂正しておきたい記事がある。 -

執筆者 : 長谷川綱樹

お盆も中盤になりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。特許庁の営業が暦どおりなので、私は絶賛仕事中です。ただし、夏期休暇中のクライアントが多く、資料の読み込みや難しい書類作成など、時間のかかる仕事に取り組むにはとてもよい時期です。

さて、今朝、インターネット記事を流し読みしていたら、気になる記事を見つけました。商標に関するものではありませんが、ご紹介します。

「日本の特許制度の大欠陥、アイデアが世界中に流出する理由」(ダイヤモンド・オンライン:8月14日付)
http://diamond.jp/articles/-/137903
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170814-00137903-diamond-bus_all

この記事、業界内の人間としてどうしても看過できません。日本の、そして世界の特許制度についてご存じない方がこの記事を読んだら、日本がおかしなことをしていると誤解してしまうかもしれないと危惧しています。そこで、この記事にちょっとツッコミを入れてみます。

日本のアイデアが全世界にさらされている! →日本だけじゃないけどね

この記事は、元々は「flier」(フライヤー)という「本の要約サイト」に掲載された記事がダイヤモンドオンライン~Yahoo!ニュースに転載されたものです。ライターの和田有紀子氏が『レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?』という書籍について書いたレビューということです。

このレビューでは、昨今、日本の産業競争力が低下している理由の一つに「技術力を公開し、外国に無償提供してしまっている」ことがあると指摘しています。確かに、特許出願されたものは一定期間(1年半)を経過すると審査の進展にかかわらず公開されますが(これを「出願公開制度」といいます)、同制度によって日本の技術が世界中に流出していることを問題視しています。

しかし、出願後一定期間経過するとその出願内容が公開されるというのは全世界的に共通する制度で、日本に限らず多くの国で採用されています。ちなみに特許業界は制度設計の「グローバル化」が進んでおり、ほとんどの国で同様の制度が採用されています。何も日本だけが損をしているわけではありません。

特許が公開されることによる“メリット”もあります。

また、「特許出願が却下された場合に出願人にもたらされるのは大事なアイデアが世界にさらされたというリスクのみである」という指摘もありますが、誤解もいいところです。特許出願すればその技術が公開されることは基本中の基本であり、企業側はそんなことは百も承知です。どの技術を特許出願しようか、どの技術をノウハウとして蓄積しておこうか、判断されているのは当然であり、それをしていないと思うほうが浅はかでしょう。

また、このレビューでは全く触れられていませんが、特許出願が公開されることで得られるメリットがあります。それは、出願後に公開されてその技術が公知(秘密ではない状態)となることで、他社に特許を取られるリスクが減るというメリットです。公知となった技術とそこから容易に到達できる技術は特許を受けることができないという決まりがあるため、少なくとも自身で公開した技術については安心して使用できることとなり、さらに、その技術に関連する発明について他社が特許を取りにくくなります。これらは意外と大きなメリットです。

また、とある特許出願が特許又は却下されるまで一般に数年間かかります。その間、特許出願中の技術は「もしかしたら特許されるかもしれないもの」として、他社に牽制効果を与えます。最終的に却下されたとしても、それは出願から数年後の話であり、一定の期間、他社に牽制効果を与えられるとすれば、それは熾烈な開発競争の中で相応の意味を持つでしょう。

パナソニックの赤字は特許戦略のせいなのか?

あと、レビュー中でパナソニックが「2013年、日本でもっとも多く特許出願をした」企業として紹介されていますが、同社がその年に大赤字を計上したことが併記されているのが気になりました。しかも、同社が「出願をノルマ化していた」が「実際に活用できる特許は限られていたうえ」「特許の出願や維持には費用がかかるため、ただただ不毛な努力をしていた」、「海外にアイデアを流出させていたという意味で、長年にわたって大きくマイナスの投資をしていた」などとして、まるで同社の特許戦略が下手だったから大赤字になったと言わんばかりの「印象操作」振りです。

もちろん、パナソニックの特許戦略が全て完璧だった、というつもりはありませんが、世界有数の総合電機メーカーである同社の特許出願件数が多いのはある意味当然でしょう。特許件数や同社の特許戦略と決算内容にどれほどの因果関係があるのでしょうか。その検証もなく、特許部門の失態で巨額の損失が発生した等の事実も示さずに、読者を「印象操作」していると言ってもよいものです。

また、最後に言及されている「オープン・クローズ戦略」などは、製造業であればどこでも独自の製造技術(ノウハウ)は持っているものです。当然、パナソニックにも膨大な製造技術の蓄積があるはずです。大量生産には製造技術がつきものですから。

結局のところ、レビュアーの知識不足では?

これらの発言が本の著者の新井弁理士によるものなのか、それともレビュアーの和田氏によるものなのかわかりませんが、本の著者は弁理士の方なので特許制度は熟知しているはずです。とすると、新井弁理士が本の中で言わんとしていることをレビュアーの和田氏が正しく理解できなかったか、もしくは本の内容を自身の問題意識(日本の技術力の衰退や中国等の台頭)と安易に結びつけてしまった結果ではないかと推測します。

その点を責めるつもりはありませんが、タイトルで「日本の特許制度の大欠陥」などと煽るのであれば、他国の特許制度と比較するなど、必要な検証作業をしていただきたかった。レビュアーの勉強不足で誤った内容紹介を行うというのは「本の要約サイト」の記事としてはお粗末ですし、下手に紹介されてしまった著者の方にも迷惑な話です。

<ブランドの保護は、商標専門弁理士へ!>
プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

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  • この記事を書いた人

長谷川綱樹

30歳になるまで、知財とは全くの別分野におりましたが、一念発起して弁理士となり、商標専門で現在に至ります。 そのせいか、法律よりも「人の気持ち」のほうに興味があります(いいのか悪いのかわかりませんが)。 商標は事業活動と密接に関係していて、関わる人々の「気持ち」が大きく影響します。「気持ち」に寄り添い、しっかりサポートできる存在でありたいと思っています。 出願案件では「取得する権利の最大化」を目指して、商標のバリエーションや将来の事業展開の予定など、丁寧にお話を伺います。 係争案件では「いかに円満に解決するか」を重視して、目先の勝ち負けだけでなく、将来的な問題解決を意識して対応して参ります。 経歴など詳しくはこちらを

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