これで根絶できることを期待。 -他人が商標を出願している件について(ほぼ)完成版 –

大量出願人(U氏という個人とB社という法人)が、世の中で話題になった言葉を勝手にかつ大量に商標出願している件を採り上げていますが、ついに決定的な対策が出てきた模様です。

「「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」(経済産業省:2018年2月27日付)
http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001.html

※新旧対照条文:http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001-6.pdf

経済産業省のニュースリリースには「商標出願手続の適正化」としか言及されていませんが、商標法の改正で地味に重要なことをしています。今回の改正で下線部分が追加されるようです。

・商標法第10条1項

商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合であつて、かつ、当該商標登録出願について第七十六条第二項の規定により納付すべき手数料を納付している場合に限り、二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。

これらの大量出願人は出願手数料を支払わずに、片っ端からあらゆる言葉を商標出願しています。出願費用を払っていないからこそできるやり方といえます。

そこで特許庁は、手数料を払っていない商標出願をどんどん却下していましたが、大量出願人側が出願の分割を繰り返していたため、彼らの出願はいつまでたっても減りませんでした。「出願の分割」とは、出願の一部を切り分けて別の出願とする手続です。分割しても出願日が最初の出願のままなので、後から本来取るべき人が商標出願したとしても、大量出願人の出願がずっと残ってしまって問題となっていました。

そこで特許庁は、出願手数料を納付していなければ出願の分割が認められないという運用に変更するという荒技を出してきました。これにより、仮にあなたの商標を大量出願人が勝手に出願したとしても、ご自身で商標出願を行って、大量出願人による出願が却下されるのを待つだけでよくなります。大量出願人による出願が却下されれば自身の商標出願が最先の出願になり、しかも彼らが出願を分割しても出願日の遡及が認められなくなるためです。

勘のいい方は、「じゃあ大量出願人が出願手数料を払ってしまった場合はどうなるの?」と思ったでしょうが、特許庁もぬかりありません。その場合もしっかり“網にかかる”ように運用が変更されています。

「商標審査便覧の改訂のお知らせ」(特許庁:2018年3月19日付)
https://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/h30-03_oshirase_syouhyoubin_kaitei.html

「商標診査便覧:41.100.03 商標の使用又は商標の使用の意思 を確認するための審査に関する運用について」https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyoubin/41_100_03.pdf

本来、商標登録はそれを使いたい人に認められるもので、使うつもり(使用意思)がなければ登録は認めない、という基本的な考え方があります。そこで特許庁は、「これだけ多くの商標出願をしていて、それら全部を使用するつもりの(=意思がある)わけない!」という考えの下、大量出願人による商標出願はまとめて拒絶することができるように運用を変更しました。具体的には、下記の要件を満たす場合は出願が拒絶されます(根拠条文:商標法3条1項柱書)。

(ア)出願人の過去の出願件数から、一出願人が自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標としては、到底想定し得ない多数の出願を行っている(概ね年間1000件以上)

(イ)ウェブサイト、報道等から商標の使用及び使用の意思があることが確認できない(例:出願人のウェブサイトによれば、出願人は、もっぱら商標の売買や使用許諾を行っている事実が認められる等)。

実際、彼らが膨大な数の商標に関する事業を行っているはずはなく、使用意思を主張立証することは困難です。これらの対策によって大量出願人の商標出願は軒並み拒絶されることでしょう。さて、これにより特許庁が勝利するのか、それとも彼らが新しい”抜け穴”を見つけて逆襲するのか、これからも見守っていこうと思います。

<ブランドの保護は、商標専門弁理士へ!>
プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

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この記事を書いた人

長谷川 綱樹

長谷川 綱樹

30歳になるまで、知財とは全くの別分野におりましたが、一念発起して弁理士となり、商標専門で現在に至ります。 そのせいか、法律よりも「人の気持ち」のほうに興味があります(いいのか悪いのかわかりませんが)。 商標は事業活動と密接に関係していて、関わる人々の「気持ち」が大きく影響します。「気持ち」に寄り添い、しっかりサポートできる存在でありたいと思っています。 出願案件では「取得する権利の最大化」を目指して、商標のバリエーションや将来の事業展開の予定など、丁寧にお話を伺います。 係争案件では「いかに円満に解決するか」を重視して、目先の勝ち負けだけでなく、将来的な問題解決を意識して対応して参ります。