ついに”色彩のみからなる商標”について登録査定が出ました!

2015年4月から新しいタイプの商標(音、動き、位置、ホログラム、色彩)の保護制度がスタートして、それぞれどの商標が最初に登録されるのか話題となっていました。それぞれ、音商標は久光製薬社の「HISAMITSU」、動き商標は同じく久光製薬社の「ナイシトール」のお腹が輪切りになるもの、位置商標がシーズ・ホールディングス社の化粧品「ドクターシーラボ」の赤いリボン図形、ホログラム商標が三井住友カード社の「PREMIUM GIFT CARD」のホログラムが「最初の登録」となりました。

(なお、動き商標で最初に登録査定が出た16件のうち、出願番号が一番早かったのは東レ社のものだったようですが、久光製薬のほうが先に登録料を納付した模様です。)

これらの”新商標”の中で、最も登録が難しい(=登録に至るハードルが高い)と言われていたのが、今回の「色彩のみからなる商標」です。今回、2件の商願が登録査定となりましたが、出願受付開始から2年近く過ぎて、ようやく最初の審査結果が出たことになります。

「色彩のみからなる商標について初の登録を行います」(経済産業省ウェブサイト ニュースリリース:2017年3月1日付)

http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170301003/20170301003.html

http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170301003/20170301003-1.pdf

登録が認められたものは...?

さて、今回登録が認められたのは「MONO」消しゴムの色とセブンイレブンの店舗看板の色ですが、どちらも納得感がありますね。「MONO」消しゴムは青白黒の3色、セブンイレブンの看板は白オレンジ緑赤の4色からなり、それぞれの色の配列も商標の構成要素と考えられます。「MONO」消しゴムは1969年に発売開始されているそうで、当時からこの青白黒の配色が使われていたようです(https://www.tombow.com/kids/book/delete_eraser.html)。セブンイレブンがいつからこの配色+配列の看板を使用しているか確認することはできませんでしたが、いずれにせよ、日本人の大部分がこれらの色商標を見ただけで「あ、あの『MONO』消しゴムだ」とか「お、セブンイレブンの看板だ」と認識できるのではないでしょうか。

商標 出願番号 出願人
商願2015-29914 株式会社トンボ鉛筆
商願2015-30037 株式会社セブン-イレブン・ジャパン

出典:特許庁

現状の登録基準はどのあたりに?

この結果から、色彩のみの商標について登録を認めるには、非常に高いレベルの著名性が必要だ、という特許庁の考えが透けて見えます。というのも、商品の色というのは本来的に商品等の魅力を増す一手段であり、同じ商品にカラーバリエーションをつけて販売し、好きな色を選んでもらったり、間接的に機能を表したりと、その商品・サービスの出所を示す以外の役割を果たすものという考えがあるため、ある程度の範囲で色を自由に使えることは確保しないといけません。

その一方で、ロングセラー商品など、長年パッケージを変更していないものなどは、長年の使用の結果、そのパッケージの配色を見ただけでどの商品だかわかる(=誰の商品だかわかる)という状態になります。その代表的なものがこの「MONO」消しゴムといえます。

このように、現時点の登録ラインは「その色を見ただけでどこの商品・サービスかわかるほど広く知られているものに限る」ということのようです。

単色の商標は登録を受けられるのか!?

正直なところ、これはとてつもなく高いハードルです。もしこの基準で定まるとすれば、単色からなる商標の登録はほぼ認められないといってよいでしょう。

例えば、赤色を挙げて考えてみると、携帯電話ではNTTドコモが赤色のみの商標出願をしています(第38類「移動体電話による通信」他)。また、保険業界では第一生命保険が(第36類「生命保険契約の締結の媒介」他)、パン業界では山崎製パンが(第30類「菓子,パン,サンドイッチ」)、インスタント食品業界では東洋水産が(第30類「カップ入り即席うどんの麺」←赤いきつね!)、銀行業界では三菱UFJフィナンシャル・グループが(第36類「銀行業務」他)、それぞれ、若干異なる色味ですが、赤色のみの出願をしています。

これらはいずれも各業界のトップ企業です。言われてみれば、ロゴマークであったり商品の一部に赤色が使用されているな、と思い出せるのではないでしょうか。しかし、赤色単色だけを見て、これらの企業のうちどれか一つを思い出す、ということはないでしょう。そうなると、これらはいずれも登録を受けられない可能性があります。

もちろん、今後さらに審査が進んで、もう少し狭い範囲を対象にして判断するようになるかもしれません。例えば、同じ業界で似た色を使っている人がいなければ登録を認める、というように。ただ、その場合も、実際にどうやって業界の使用状況を調査・判断するのでしょうか?難しい問題です。

しかし、複数の色を組み合わせて使っている場合であれば、同じ配色(+似たもの)を他人が使用している可能性は一気に低くなります。その上で全国レベルの著名性を要求すれば、よほどのことがない限り、登録後にトラブルが発生することもないのではないでしょうか。もし、同じ配色(や似たもの)を使っている人がいても「それは著名なものを真似したからだ」と言うことができる(可能性が高い)ので。

同制度の導入後、単色について登録が認められるのか否か、我々商標弁理士の間でずっと話題になっていましたが、今のところはまだ難しいようです。商標登録によって保護を受けられるようにすることも大事ですが、登録することでかえって混乱を招くようなことはしてはいけないと思います。その意味では、今回特許庁がとても慎重に審査を進めていることは、むしろいいことではないかと思います。

<ブランドの保護は、商標専門弁理士へ!>
プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

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この記事を書いた人

長谷川 綱樹

長谷川 綱樹

30歳になるまで、知財とは全くの別分野におりましたが、一念発起して弁理士となり、商標専門で現在に至ります。 そのせいか、法律よりも「人の気持ち」のほうに興味があります(いいのか悪いのかわかりませんが)。 商標は事業活動と密接に関係していて、関わる人々の「気持ち」が大きく影響します。「気持ち」に寄り添い、しっかりサポートできる存在でありたいと思っています。 出願案件では「取得する権利の最大化」を目指して、商標のバリエーションや将来の事業展開の予定など、丁寧にお話を伺います。 係争案件では「いかに円満に解決するか」を重視して、目先の勝ち負けだけでなく、将来的な問題解決を意識して対応して参ります。