「いきなり!ステーキ」とその「フォロワー」達。- 商標法による模倣防止の限界 –

今朝、駅に向かって歩いていたら、途中で新しいお店の工事をしていました。どんなお店ができるのかなと看板を見ると、「アッ!そうだステーキ」とあります。ん!?なんか見覚えあるような気が...。

(出典:チムニー株式会社「アッそうだ!ステーキ」ひたち野うしく店ウェブサイトより)

 

赤いビックリマークに「ステーキ」の文字から、「いきなり!ステーキ」を連想してしまいました。ネット検索してみたところ、オーダーカット方式&グラム単位の料金体系のステーキレストランだそうです。「いきなり!ステーキ」と同じ業態ですね。これは“寄せていった”感が!

そこで「いきなり!ステーキ」のウェブサイトを見てみました。あれ?ビックリマークがない!

(出典:株式会社ペッパーフードサービス「いきなり!ステーキ」ウェブサイトより)

 

ビックリマークだと思っていたのはロケットだったんですね。これまで気がつきませんでした。でも、サイト内のテキスト表示では「いきなり!ステーキ」とビックリマークが使われています。ロケットのイラストと「!」を併用していたんですね。だから「!」のイメージがあったのかと納得しました。

気になって「アッ!そうだステーキ」の運営会社を調べてみたら、なんとチムニー株式会社とあります。私は大学時代「居酒屋チムニー」に通い詰めていて、お店が「はなの舞」に業態変更するときも、最終日に“お別れ飲み”をしたくらい行きつけだったのですが、まさかこんな”寄せに行く”会社になってしまうとは!しかも、同社ウェブサイトで他の店舗名称を見てみたところ、「磯丸水産」ならぬ「豊丸水産」など、他にも”寄せに行った”店舗名称が見つかりました。ううむ。。。

 

<「いきなり!ステーキ」と「アッそうだ!ステーキ」は類似?非類似?>

でも、これらの店舗名称は商標的には「全然アリ」と判断される可能性が高いです。現在の商標審査運用ではこの程度の“寄せ具合”であれば非類似と判断されるはずです。

「いきなり!ステーキ」の運営企業、株式会社ペッパーフードサービスは、文字商標「いきなりステーキ」(ビックリマークなし!)を2件登録していて、うち1件は「飲食物の提供」というサービスを権利範囲とします(商標登録第5663544号「いきなりステーキ」第43類「飲食物の提供」他)。一方、チムニー社は商標出願中でした(商願2018-46251「アッそうだ! ステーキ」第43類「ステーキを主とする飲食物の提供」他)。

チムニー社の商標はまだ出願中で審査結果は出ていません。ですが、共通する「ステーキ」部分は「提供する飲食物」を意味するとして除外して「いきなり」と「アッそうだ」部分を比較しても、音や意味が大きく異なるので非類似と判断されるでしょう(商標全体で比較しても同様です)。「いきなり!ステーキ」が有名なことを考慮しても、両者を「区別するのが難しい程に」混同することはないと判断される可能性が高いです。そのため、チムニー社の商標はじきに登録されて、商標権が並存することになるでしょう。

 

<商標法による保護の限界>

このように、商標の類似範囲(特許庁や裁判所が類似と判断する範囲)は皆さんが思っているよりも“狭い”のが現状です。でもそれは商標の使用者側から見るからで、もしあなたが新規参入する側であれば「類似の幅が広すぎると困る」と思うはずです。

ただ、問題は商標法の範疇を超えたところにあるような気がします。両者はステーキレストランという料理のジャンルが同じだけでなく、オーダーカット方式やグラム単位の料金体系という具体的な業態までがほぼ同じなので、その分紛らわしくなっています。しかし、商標法ではこうした「具体的な業態」が酷似していることは考慮されにくいのです。

個人的には、新しい市場を創りだした先行者に報いるような制度であるべきでは?と思ってしまいますが、難しいところですね(それを商標法ですべきか否かも含めて)。飲食業界では、ある業態が流行すると同種の店が一気に増えることがよくあります。そのこと自体を問題視するつもりはないですが、店舗名称・レイアウトなども流行りの店に”寄せすぎる” のはさすがにやり過ぎじゃないかと思ってしまいます。でも、こうした「フォロワー」が出ること自体「流行っている証」でしょうし、後発であってもそれがよい店であれば、先行者であっても淘汰されるのが飲食業界の常なのかもしれません。

 

最後に、他に「いきなり!ステーキ」のフォロワーはいないかなと検索したところ、やっぱりありました。

(出典:株式会社モンテローザ「カミナリステーキ」ウェブサイトより)

 

なんと「カミナリステーキ」です!「魚民」や「山内農場」「俺の串かつ黒田」で有名な“フォロワー界の横綱”株式会社モンテローザによるオーダーカットのステーキ店だそうです。ロゴデザインは随分イメージが違いますが、「○○ナリステーキ」まで“寄せてくる”のはさすがだなと思いました。

<ブランドの保護は、商標専門弁理士へ!>
プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

 

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この記事を書いた人

長谷川 綱樹

長谷川 綱樹

30歳になるまで、知財とは全くの別分野におりましたが、一念発起して弁理士となり、商標専門で現在に至ります。 そのせいか、法律よりも「人の気持ち」のほうに興味があります(いいのか悪いのかわかりませんが)。 商標は事業活動と密接に関係していて、関わる人々の「気持ち」が大きく影響します。「気持ち」に寄り添い、しっかりサポートできる存在でありたいと思っています。 出願案件では「取得する権利の最大化」を目指して、商標のバリエーションや将来の事業展開の予定など、丁寧にお話を伺います。 係争案件では「いかに円満に解決するか」を重視して、目先の勝ち負けだけでなく、将来的な問題解決を意識して対応して参ります。