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「LADY GAGA」と商標審査基準の改訂

執筆者 : 木村純平

トピックスでもお知らせしていますが、「商標審査基準」が改訂され4月1日より適用されています。昨年は新しいタイプの商標が商標登録の対象となるという制度の大変動があり、それに合わせて「商標審査基準」も大幅に追加されました。しかし、今年は大きな法改正が無い割に、「商標審査基準」がかなり変更・追加されました。日経新聞も「キャッチフレーズも商標 特許庁、原則拒否から転換」として、特許庁が45年ぶりに「商標審査基準」の大幅な改訂に乗り出したと伝えています。

さらに、この「商標審査基準」の改訂作業をすすめている産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会商標審査基準ワーキンググループの議事録を見ますと、どうやら平成27年度と28年度にわたって審査基準の全体的な見直しを行うことが検討されているようで、来年度もまた大きな改訂がありそうです。主に今年度は新しいタイプの商標に関する点と商標の識別性(商標法3条)に関する論点について、改訂が行われています。

[商標審査基準〔改訂第12版〕]

3.商品の「品質」、役務の「質」について

(略)

(2) 人名等の場合

商標が、人名等を表示する場合については、例えば次のとおりとする。

(ア) 商品「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」について、商標が、需要者に歌手名又は音楽グループ名として広く認識されている場合には、その商品の「品質」を表示するものと判断する

※下線は筆者

その中で今回取り上げるのは、第3条第1項第3号に関して規定する以下の箇所です。

一般的には、商標は業務上の信用が化体したもので、広く認識されればされるほど価値が高くなるものと言われています。しかし、この審査基準に照らせば、人名(歌手やグループの名称)は有名になればなるほど、識別力が無くなる、つまり、その商標的価値が無くなるというわけです。115047

いままでに蓄積された判例・審決に沿った判断を審査基準としてとりまとめる、というのも今回の全体的な見直しの目的なのですが、この部分の改訂に大きく影響を与えたのが「LADY GAGA事件」知的財産高等裁判所平成25年12月17日判決(審決取消請求事件)です。

この事件は米国の著名な歌手であるLADY GAGAのマネージメント会社が、標準文字商標「LADY GAGA」を第9類「レコード,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」を指定商品として商標登録出願したところ、拒絶査定となり、不服審判、さらに審決取消訴訟までその判断が争われたものです。

結果として裁判所は、登録を拒絶した審決を支持しました。裁判所は、「本願商標に接する者は、歌手名「LADY GAGA」を表示したものと容易に認識することが認められるから、これに接する取引者・需要者は、当該商品に係る収録曲を歌唱する者、又は映像に出演し歌唱している者を表示したもの、すなわち、その商品の品質(内容)を表示したものと認識するから、本願商標は、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」と判断しています。

この判決前の特許庁の審判では、「安室奈美恵\AMURO」「HOUND DOG/ ハウンドドッグ」など、多くは同様の論拠で登録が拒絶されているものが多いのですが、「JIMI HENDRIX」「2PM」「175R」などは識別力が肯定されたうえ、登録が認められていました。しかし、上記の「LADY GAGA事件」判決で特許庁としても解釈が明確になり、今回の審査基準の改訂に至ったものと言えます。

なにか音楽を購入するとき、LADY GAGAの名前を信用して購入することもあると思いますし、逆に無名の歌手やバンド名なら商標登録できるというのはなんとなく違和感を感じてしまいます。しかし、いままでに蓄積された判例・審決に沿った判断を審査基準としてとりまとめ、判断の法的安定性を高めるという趣旨からは肯定されるべきなのかなと考えます。

このように今回の商標審査基準の改訂により法解釈が明確となった例を、その改訂の元となった判例の解説を含め、今後も取り上げていきたいと思います。

プライムワークス国際特許事務所 弁理士 木村純平

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木村純平

2人目の子供の誕生をきっかけに弁理士を目指してから、早くも20年が経過しそうです。商標から始まり、意匠、著作権、現在の事務所に来てからは特許、実用新案も手がけるようになり、それぞれの分野でクオリティを上げ、ユーティリティプレイヤーとして重宝されるよう精進しています。 経歴など詳しくはこちらを

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