海外商標

【解説】アメリカで商標権を取得する―使用証拠はこれが必要です

執筆者 : 木村純平

外国で商標登録したいとご相談いただく中で、やはり中国、欧州と並んでアメリカでの登録をご検討されている方が多くいらっしゃいます。訴訟社会のアメリカにおいて法的リスクを避けるためにも、商標登録はアメリカにおけるビジネスの必須事項かもしれません。

商標の使用主義

アメリカの商標制度は使用主義と言われています。これは先に出願した人を優先するという日本の先願主義とは異なり、先に使用した人にその商標権を認めるという考えです。

では、使用を開始すれば、商標権が認められるのであれば、アメリカでは商標登録の必要は無いのでしょうか?

それは違います!

アメリカでは、たしかに未登録であっても先に使用していればその使用の範囲内で商標権が認められます。しかし、その使用の範囲内でしか認められないのです!例えばビジネスがうまくゆけば商品の流通範囲を広げていきたいですよね?だから、せっかくならアメリカの全域で商標権を主張したいと思うのが通常かと思います。なので、アメリカ全域で商標権を主張するために、アメリカ全域にその効力を及ぼす連邦登録を取得する必要があるのです。

その他にも、

  • 侵害事件が発生した場合、登録をしておけば侵害者がそれを知っていたことが推定される、つまり、こちらが立証する必要がない、
  • 商標権の税関登録をして輸入差止、輸出差止することができる、
  • 商標登録を示すRマーク(®)を表示することができる、
  • 継続的に使用して5年間登録を維持すると、たとえ出願前の未登録商標権者がいた場合でも、制限を受けない、

などのメリットもあるのです。

出願の方法

商標登録の出願の方法は、「アメリカを指定する国際登録出願を行う方法」と「アメリカの現地代理人を通じ直接出願する方法」があります。

※国際登録出願については、記事「マドプロを選ぶか各国個別に出願するか? ― マドプロ出願の注意点」をご覧ください。

直接出願する場合、以下の4つから出願の基礎を選択する必要があります。

  • 実際の使用に基づく出願
  • 使用の意思に基づく出願
  • 本国登録に基づく出願
  • 本国出願に基づくパリ優先権主張をした出願

実際の使用に基づく出願

出願の基礎に「実際の使用に基づく出願」を選択した場合、出願にあたって、商標の最初の使用開始日とアメリカ域内での使用開始日を申告し、使用証拠(後述します)を提出します。ですので、すでにアメリカで、全ての指定商品・役務についてその商標を使用している必要があります。

使用の意思に基づく出願

まだ実際にアメリカでその商標を使用していない場合、その商標を使用する意思を宣誓し、出願を行うことができます。この場合、審査を経て、登録許可が通知されてから6ヶ月以内(最大5回延長が可能なので、登録許可から3年まで延長が可能)に使用証拠を提出する必要があります。

本国登録に基づく出願

日本にその商標を登録している場合、その登録を基礎としてアメリカでの使用の有無に関係なくアメリカで出願する事ができます。ただし、その商標が日本の登録商標と同一であり、指定商品・役務も日本の登録の範囲に含まれている必要があります。また、日本の登録を証明するために日本特許庁発行の登録証の写しと、必要に応じて本国登録証明書を提出します。

本国出願に基づくパリ優先権主張をした出願

日本国の商標登録出願から6ヶ月以内であれば、その出願を基礎として、アメリカでの使用の有無に関係なくアメリカで出願する事ができます。ただし、その商標が日本の出願商標と同一であり、指定商品・役務も日本の出願の範囲に含まれている必要があります。また、日本の出願を証明するために日本特許庁発行の優先権証明書を提出します。

(日本の出願が登録されたら、上記「本国登録に基づく出願」に切り替える必要があります。つまり、日本で登録された範囲内でなければアメリカで登録を受けることがでない点が要注意です。)

使用証拠

「実際の使用に基づく出願」と「使用の意思に基づく出願」の場合、登録までに必ず使用証拠を提出する必要があります。使用証拠とは、実際に商標がその指定商品・役務に使用されていることを示すものです。

[商品商標の場合の使用証拠の例]

  1. 商標が付された商品の写真画像
  2. 商品の容器・梱包物に商標が付されている写真画像
  3. 商品のラベル・タグに商標が付されている写真画像
  4. 商品のディスプレイ・表示・カタログ・・・オンラインショッピングサイトのキャプチャー画像や通販カタログなどが認められます。しかし、単に商品の説明や広告ではなく、値段が表示されている、注文フォームが備わっているなど商品を販売できる状態にあることが必要です。
  5. マニュアル・取扱説明書・・・商品の一部として販売されるものは認められます。
商品の写真画像 US_use evidence_adidas商標:adidas
指定商品:運動靴ほか
登録番号:0891222
商標権者:ADIDAS-SPORTS
CHUHFABRIKEN
ADI DASSLER K.G.
商品の容器・梱包物
の写真画像
 US_use evidence_yakult商標:Yakult
指定商品:乳酸菌飲料ほか
登録番号:3215883
商標権者:Kabushiki Kaisha
Yakult Honsha
商品のラベル・タグ
の写真画像
 US_use evidence_gap商標:GAP
指定商品:被服
登録番号:1129294
商標権者:GAP STORES, INC.
商品の表示 US_use evidence_nike商標:NIKE
指定商品:眼鏡
登録番号:3081688
商標権者:Nike, Inc.

【出所:USPTOウェブサイトhttp://www.uspto.gov/trademark

[役務商標の場合の使用証拠の例]

  1. 当該役務が表示されているウェブサイト
  2. 当該役務が表示されている会社案内・広告
  3. 当該役務が表示されている請求書(INVOICE)
役務が表示されている
ウェブサイト
 US_use evidence_google商標:GOOGLE
指定商品:コンピュータサービス
登録番号:2806075
商標権者:Google Inc.
役務が表示されている
会社案内
 US_use evidence_nittsu商標:1575608
指定役務:宅配サービス
登録番号:1575608
商標権者:NIPPON EXPRESS
U.S.A., INC.

【出所:USPTOウェブサイトhttp://www.uspto.gov/trademark

上記の通り、商品商標は役務商標に比較し、厳格に使用証拠が求められます。

使用証拠は通常各区分について1種類で足りますが、区分の中の指定商品・役務が大きく異なる場合など、審査官に2種類以上の使用証拠を求められる場合もあります。

また、その他の基礎、「本国登録に基づく出願」「本国出願に基づくパリ優先権主張をした出願」、を選択した場合や国際登録出願についても、登録後5~6年の期間及び更新時(登録後9~10年の期間)には、同様の使用証拠を提出しなければ登録は取り消されます。

最後に

アメリカの商標権制度は他国と異なる側面があり、出願の基礎や商標の使用に関連して検討が必要になってきます。ですので、弁理士などの専門家によく相談し、賢くアメリカで商標権を取得しましょう!!

直接出願の場合、現地費用(現地の特許事務所・法律事務所、特許庁に支払う費用)と日本の特許事務所の費用で25万円~、マドプロ出願の場合、トータルで25万円~の費用が発生します。
※上記費用はあくまで弊所を通じて行う場合の参考費用で、区分数、商標の種類、為替レートなどで変動します。是非お見積もりのお問い合わせをください。マドプロ出願の場合、同時に出願する国が多いほど割安になります。

詳細な費用は以下の海外商標お見積もりフォームから弊所にお問い合わせください。

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    プライムワークス国際特許事務所 弁理士 木村純平

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    • この記事を書いた人

    木村純平

    2人目の子供の誕生をきっかけに弁理士を目指してから、早くも20年が経過しそうです。商標から始まり、意匠、著作権、現在の事務所に来てからは特許、実用新案も手がけるようになり、それぞれの分野でクオリティを上げ、ユーティリティプレイヤーとして重宝されるよう精進しています。 経歴など詳しくはこちらを

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