特許庁の「本気」を見ました。 – 他人が商標を出願している件について(続報) –

皆様もご存じかと思いますが、とある出願人(U氏という個人とB社という法人で両者は住所が実質的に一緒)が世の中で話題になった言葉を勝手にかつ大量に商標出願している件について、さまざまなニュースやワイドショーで取り扱われて話題となりました。

特許庁は昨年5月に「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」という注意喚起のアナウンスを行っていますが、今回、さらに踏み込んだ「お知らせ」を出しています。

「手続上の瑕疵のある出願の後願となる商標登録出願の審査について(お知らせ)」(特許庁:6月21日付)

http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/kashi_kougan.htm

この大量出願の件で一番の問題は、出願人が出願手数料を支払っていないことです。本来、商標を出願する際には、審査を受けるための費用として少なくとも12,000円以上の出願手数料を特許庁に支払う必要があります。しかし、この大量出願人はこの出願手数料をほとんど支払っていません(逆に、だからこそ膨大な商標出願が可能となっています)。

「必要な手数料を払っていないのだから、特許庁は出願を受理しなければいいじゃないか」と考える方も多いかと思います。このニュースが話題となっていたときも、ネットニュースのコメント欄などで同様の意見(文句?)をよく見かけました。実は、商標に関する国際条約やその他規定によって、出願手続時に手数料を支払わなかったとしても、とりあえず出願を認めなければいけないことになっています。これは善意の出願人を保護するための規定なのですが、彼らはそれを逆手に取っているわけです。

とはいえ、所定の期間を過ぎても出願手数料が支払われなかった場合には、特許庁は出願を却下することができます。今回の「お知らせ」で「出願の日から概ね4か月から6か月で出願を却下しています」とあるのは、この規定の中で出願を却下できる「最短距離」がこの期間というわけです。この点、特許庁の努力の跡が見られます。

意外と大きな運用の変更が!

そして、今回の「お知らせ」でさらに重要なのは、この“なるべく早く出願を却下する”だけでなく、それ以降の対応方法も変更していることです。

例えば、この大量出願人が世の中で話題となった言葉をいち早く商標出願して、その後に本来出願すべき人がその言葉を商標出願したとします。これまでは、大量出願人の商標が先に出願されているので、後から出願した本来の出願人による商標は、大量出願人の商標の存在を根拠として拒絶されていました。その際、拒絶理由を通知する書面には、その先行出願が大量出願人によるものかどうか確認しなければわかりませんでした。

しかしこれからは、先に出願された商標が出願手数料を支払っていない場合には、拒絶理由を通知する際に、先願商標は手続上の瑕疵(要は出願手数料が未納であること)のある出願であり、その出願が却下され次第登録査定を行うと拒絶理由通知に明示すると運用が変更されます。

本来の出願人にすれば、自身の出願が拒絶されるのはこれまでと同様ですが、拒絶の根拠となる先行商標が追って却下される可能性があることが明確になるので、対応がしやすくなります。現在、審査結果が出るのは出願から5ヶ月後程度なので、仮に拒絶理由通知書で大量出願人の先行商標が挙げられたとしても、その後すぐに出願却下されるものも多いと思います。

さらには、特許庁側で先行出願の却下を確認でき次第登録査定を行う、とあるので、拒絶理由通知に対する反論が不要になるケースもあるでしょう(他に拒絶理由がない場合)。

こうして、例の大量出願人による商標が通常の出願とは異なる取扱いとなることで、本来の出願人による商標出願が以前よりもスムーズに登録されるようになることでしょう。

 

さらに「特許庁の本気」が垣間見えます。

この特許庁の対応を受けて、例の大量出願人は出願手数料を支払うようになるのでしょうか。というのも、上記の運用は大量出願人が出願手数料を支払った出願については対象外となるためです(出願手数料を支払えば「瑕疵がある」出願に該当しなくなるため)。

いやいや、たとえ出願手数料を支払ったとしても、特許庁は本気です。「お知らせ」後半の「なお」書き以降に、「特許庁は、商標法に基づき適切に審査することとなります。」として、各拒絶理由の該当性をかなり厳格に審査・判断する意思があることが見て取れます。その出願人が他人の商標を大量に出願している者だということがわかれば、使用意思があるのか疑義があると判断するでしょう。また、「他人が既に使用している商標を先取り的に出願する場合」や「公益的な標章を関係のない第三者が出願する場合」には、その登録を認めないとする規定に該当するものも多いはずです。こうした「取り得る規定」を総動員して大量出願人による商標を拒絶するはずです。実際に、大量出願人による出願に対してこれらの拒絶理由がまとめて通知された案件も確認されています。

例の大量出願人は、これまで法制度の「抜け穴」を利用して暴れ回っていましたが、特許庁側も放任していたわけではありません。さまざまな法制度の縛りの中で、できる限り効果の見込める対策を考えてくれました。最近は彼ら以外にも同様の行為を行う「模倣犯」?が出てきているようなので、それらへの対策も進めていただきたいと考えています。

商標制度の意義は「取引秩序の維持」や「需要者の利益保護」という面もあるので、こうした「ズルい奴ら」が得をしないように、制度・運用を整えていってほしいと思います。

<ブランドの保護は、商標専門弁理士へ!>
プライムワークス国際特許事務所 弁理士 長谷川綱樹

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